東京都中野区平和の森公園で建設中のコンクリート滑り台に関し、区民が日々撮影した写真に基づき、設計や施工状況を考察します。
本稿の構成:
コンクリート滑り台の日々の工事の様子
スライドショー
施工開始の2019年6月5日朝(0605)から本稿執筆の11月17日朝(1117)までに撮影の写真をスライドショーにしました(写真にマウスを乗せるとナビゲーションが出ます)。
主な出来事
上のスライドショーで見ることができる主な出来事です。
- 6/5 既存の築山の破壊開始
- 6/12 築山の破壊完了
- 6/18 発泡スチロール設置開始
- 6/30 盛土が完成
- 7/19 頂上に砕石を敷き固めて捨てコンクリート打設
- 8/7 尾根を人力で堀って遣り形設置
- 9/2 遣り形撤去
- 9/25 尾根を重機で堀って遣り形設置
- 9/30 滑り台前面に下地コンクリート打設開始
- 10/8 滑り台前面に下地コンクリート打設完了
- 10/15 滑り台麓に下地コンクリート打設完了
- 11/12 今までに打設した下地コンクリートを大部分撤去
コンクリート滑り台は、地下下水処理施設の覆蓋上に建設されています。覆蓋に上載荷重制限があるため軽量化の必要があり、従来の築山にもEPSブロックが入っていましたし、それを撤去して建設中のコンクリート滑り台にも発泡スチロールが入っています。
工事は、発泡スチロールを入れた盛土が完成し(6/30)、目印の墨出しのために捨てコンクリートを打つ(7/19)までは順調でした。しかし、下地コンクリートの型枠設置の目印となる木杭や板(遣り形)の設置には手間取ります。真夏の炎天下にスコップで盛土の尾根を掘って発泡スチロールの位置を確認し遣り形を設置(8/7)したのに、その遣り形は9/2に撤去されました。9/25には、今度は重機で発泡スチロールの位置を確認し遣り形を設置しました。この遣り形に基づき、9/30から下地コンクリートが流され、その後約1ヶ月半、コンクリートが乾くまで放置されました。
しかし、苦労して打設した下地コンクリートは、頂上部を除いて11/12に全部撤去されたのです。およそ4ヶ月の作業がリセットされたことになりますが、いったい何があったのでしょうか?
本稿ではその謎を解くために、まず、設計段階で参考にされた別の公園へ向かいます。
平和の森公園のライバル
東京23区の区職員たちは他区のことをすごく気にしているところがあります。「他区ではすでに〇〇をやっているからうちの区でもやる」というような、子どもじみた横並びの理由づけは中野区議会でもよくなされていますね。
さて、平和の森公園のコンクリート滑り台は、どうやら東京都豊島区の南池袋公園の国土交通大臣賞の栄誉に輝く "リボンスライダー" をライバル視しているようです。次の2枚の画像は中野区が情報公開した平和の森公園再整備工事の実施設計報告書のスクショです。
実際、下表のようにデータ的に中野区は微妙に勝とうとした気配があります。
平和の森公園 | 南池袋公園 | |
---|---|---|
高さ | 2.3m | 1.987m |
最大勾配 | 30.0° | 29.9° |
南池袋公園を訪問
昨日(2019年11月16日)南池袋公園に行き、リボンスライダーを実際に見てきました。
子どもたちが遊んでいます。幅が広いので、小さな子どもと大きな子どもが衝突するようなことはあまり起こっていないようでした。また、滑り台に横から登る子はおらず、みんな助走をつけたりして滑る面から登っていました。このあたりは幅の狭い平和の森公園のコンクリート滑り台では全然違うことになりそうで心配です。
さて、南池袋公園のリボンスライダーは手作りの1点物で、デザイナーと左官職人が下地コンクリートの型枠を設置するときから緊密に連携して建設されました。その様子はこちらの施工業者のページで見ることができますが、1/50の精密な模型を作ったり、コンクリート型枠に糸を張ったりと、数々の工夫の末に作られています。
ちょっと残念だったのは、完成から3年しか経っていないのに、滑る面に多数の大きなクラックが入っていたことです。建設が大変な割りに耐用年数が短く、維持費が大変と思われますね。
人造石研ぎ出し仕上げ
平和の森公園のコンクリート滑り台は、南池袋公園のリボンスライダーとは異なり、「人造石研ぎ出し仕上」をすることになっています。これは、モルタルと小石を混ぜたものを下地に擦り付けてグラインダーで研ぐ仕上げで、通称「人研ぎ」(ジントギ)。昭和な感じのレトロな滑り台や流し台、階段の手すりなどに昔は良く使われていました。
しかし、軽く Google 検索をしてみると、かつては良くある仕上げだったが、現在ではこの仕上げができる左官職人が居ないので困難で贅沢な仕上げとなっていることがわかります。例えばタイル貼りと同様、いわばロストテクノロジーになっているわけです。
その点に関して日本設計と中野区は、打合せ記録簿に、人造石研ぎ出し仕上げに関し見積もり価格の「特別調査から除外する」という記録を残しています。したがって、この仕上げが一点もので貴重であるという認識があったと思われます。
しかし、日本設計の作った作業日数算定では、コンクリート滑り台の盛土が出来てから完工まで日数はたった3.3日と見積もられています。
3.3日で人造石研ぎ出し仕上げのコンクリート滑り台を作るのはどう考えても不可能なので、この日数算定は間違いでしょう。つまり、コンクリート滑り台は工事が始まる前から間違いが始まっていたということです。
今、平和の森公園のコンクリート滑り台の工事現場で起こっていること
コンクリート滑り台を実際に施工しているのは、一次下請けの辰島建設です。ホームページを見るかぎりでは、この会社は人造石研ぎ出し仕上げの滑り台が作れるようなベテラン職人さんを抱えていないと思われます。
上のスライドショーで分かるように、コンクリート滑り台の建設は、施工の目印になる遣り形を設置する段階でも迷走していました。打設した下地コンクリートはおそらく滑り台の態をなさなかったので破壊し、工事をリセットしたのではないでしょうか。
また、南池袋公園とは滑り台の仕上げが違いますが、平和の森公園はクラックの心配はないのでしょうか。南池袋公園では盛土に発泡スチロールが入ってませんが、平和の森公園では入っていていかにも沈み込みそうですけど。
コンクリート滑り台、大丈夫?作れる?
(く)