中野区の酒井区長、任期折り返し点の公約進捗(2020年6月)

概要

東京都中野区の酒井直人区長の任期折り返し点が2020年6月15日のため、選挙公約の進捗をざっとチェックした。2020/6/14記

 

酒井区長公約

2018年6月中野区長選初当選時の選挙公報

f:id:nakanocitizens:20200614105746j:plain


選挙時の「詳しい政策」(インターネットアーカイブ)。

酒井氏選挙公報、法定ビラ、そのほかのビラ、酒井氏区長選サイトのリンクは下記参照。

 

【1】タスククリアしました

『なかの区報』を「オールカラーにする」

『なかの区報』(月2回発行)を就任翌年から早速カラー化するため、2019年1-2月にプロポーザル(提案)方式で印刷・編集委託業者を募集、4月8日決定

 

2019年7月5日号からカラー化。

 

新しく選定された2019年度の印刷・編集委託は株式会社文化工房(港区)。契約価格4585万360円(2019年7月-2020年3月の9カ月分発行。金額に単純に12/9を掛けると6113万3813円となる)。2020年度も文化工房、6153万5540円。
カラー化前の2色刷りの時の編集・印刷業務委託は株式会社ドゥ・アーバン(目黒区)、2017年度2018年度の契約金額はいずれも5246万3700円だった。

 

なおカラー化以降のなかの区報は、中野サンプラザの最終的な再開発方針や新区役所の設計建設業者(契約金額213億円)が決定しようが、JR中野駅周辺に次から次へと再開発タワマンを計画しようが、残す可能性のある区立保育園の数をさらに減らそうが、保育園申込窓口が毎年トラブルを起こそうが、ほぼほぼ明るくふわっとした話題を巻頭に載せ続けている。区民の評判はいいという話もあるようだが、私はわりと毎回イラッとしている。

 

2020年5月20日号(リンク)は巻頭、新型コロナウイルス対策で、珍しくタイムリーだが、表紙は酒井区長肝いりで始まったという「中野テイクアウト」(コロナに関連した飲食店応援プロジェクト)。

 

f:id:nakanocitizens:20200613155505j:plain

少なからぬ区民が困窮して支援を必要としているときに、その支援策一覧が掲載された区の広報紙の表紙がお洒落なランチの写真で、内容は表紙に書いてもいない。区民に必要な情報を伝える気があるのだろうか。

 

その他タスククリアした選挙公約

不妊治療助成制度創設-2019年4月開始。「東京都特定不妊治療費助成事業の承認決定を受けている方に対し、特定不妊治療(体外受精・顕微授精)および男性不妊治療にかかった保険適用外の治療費の一部について助成 」(保存されたウェブデータへのリンク)

・区情報オープンデータ化-2019年9月開始(リンク)

中野駅周辺開発エリアマネジメント導入-2019年9月「産学公金」で「中野駅周辺エリアマネジメント研究会」発足(リンク)

・無電柱化促進-2019年11月無電柱化推進計画策定(リンク)

認知症患者が電車事故に遭った場合の損害賠償保険創設-2020年2月受付開始(保存データへのリンク)

・手話言語条例-2020年4月施行(リンク)

・犯罪被害者支援条例-2020年4月施行(リンク)

 

しかし上記政策は区議会もほぼ異論なく、田中大輔前区長を擁護する気は全くないが、区報カラー化以外のほとんどはたとえ田中前区長であってもやっていたのではないかと思う。

 

評価できる変化

 「情報の公開」については、クリアとまではいかないが、前の田中区政が酷すぎたということもあるものの、一部よくなった。これは酒井区政について実は私が最も評価している点だ。例えば予算はそれまで区ホームページに「当初予算の概要」しか掲載されなかったが、2019年度からは補正も含め「予算書」と「予算説明書」が掲載されている。

 

【2】ダメでした

中野サンプラザ「1万人アリーナ計画は全面的に見直します」

2018年6月の就任会見で酒井氏は、検証委員会を「秋にも」立ち上げ、「ゼロベースで」見直し「18年度中には方向性を出したい」としていた。就任直後のインタビューで、中野サンプラザ存続の「可能性は当然ある」と話した。
しかし就任わずか3カ月後の2018年9月、突然のNHK 中野サンプラザ「解体」報道に続き、記者会見で解体を発表した。公約の「一万人アリーナ計画検証委員会」は結局立ち上げず、代わりに7月に招集した既存の「区役所・サンプラザ地区再整備推進区民会議」は、再検討のための会合をこの時点で2回しか開いておらず、区民からの意見募集もまだ始めたばかりのタイミングだった。2020年1月、「区民会議」で出された意見も区民からの意見も受け入れず、田中前区政の計画とほぼ変わらない中野サンプラザ解体/再開発計画(1万人アリーナが7000人アリーナに変更されただけ)を最終的に決定した。事業者の募集を始め、現在選定中。なお、実際の開発内容は開発業者の提案次第ということになっている。


中野サンプラザ再開発問題(公約問題含む)まとめや当ブログ記事⬇️

酒井区政は中野サンプラザを始め、JR中野駅周辺など区内の再開発を田中前区政の計画のまま進めている。もしも酒井氏が2期目に挑戦する場合、「区長がやりたい開発から区民が必要とする開発へ」に類する主張を再びするならば、嘘と思った方がいい。

 

平和の森公園の「緑と広場を守る」「草地広場を残します」

2018年11月-2020年3月、田中前区政の計画通りの平和の森公園スポーツ公園化工事(第2工区)を実行。2019年3月に草地広場の300メートルトラックやコンクリート滑り台をやめる議案を区議会に提出したが、自公などの反対で否決。ただしこの議案でも、第2工区の1万2000本以上の樹木を伐採し、草地広場全面を掘り返して1億円分の発泡スチロールを埋める基礎工事は原計画のまま実施することになっており、議案議決の段階で伐採は既に始まっていた。2020年6月、公園PFIを進める酒井区政は平和の森公園を民間業者の指定管理とした。


平和の森公園まとめや当ブログ記事、工事写真、経過、情報公開文書⬇️

 

中野サンプラザと平和の森公園の経過は、当時自分でまとめたり書いたりした文を読むと今でも息苦しくなる。政治家は有権者が縋る気持ちで頼りにした公約の重さをどう考えているのか。理解できない。

 

【3】一部進捗中?

「児童館、区立幼稚園保育園など区立施設の存続」

田中前区政は全て廃止方針。酒井区政は区立保育園、児童館とも幾つかは維持する方向で検討中だが、区議会野党(自民党公明党など)の反対も予想され、実現は不透明。

区立保育園は33カ所あったが、田中前区政が13カ所民営化、さらに民営化計画が立てられていた10カ所は酒井区政がそのまま粛々と民営化あるいは民営化中。残り10カ所をどうするか2021年8月策定予定の区基本計画に盛り込むとしている。

 

児童館は田中前区長の児童館全廃計画に基づきこれまで10館を廃止、現在18館残っている。酒井区政は今後そのうち9館減らす方針を2019年10月公表。ただし残すものは「新しい児童館」であり、現在の児童館とは違う。

児童館関連のmin.t 。

 

田中前区政で2園廃止され残った区立幼稚園2園も検討対象。

 

いずれも基本計画で決定される。中野区は基本計画策定支援業務を、株式会社地域総合計画研究所(港区)に契約価格910万9034万円で委託している。基本計画は2021年3月策定とされていたが、2020年6月に、コロナの影響により2021年8月への延期が発表された。

 

その他

・多文化共生推進条例-2020年3月区議会に男女共同参画・多文化共生推進審議会条例を提出、可決(リンク)。今後審議会で検討を開始する。

 

【4】まだ分からない

「教育長は、民間人を登用します」

酒井区長は2018年6月の就任以来空席が続いた教育長の同意人事を、区議会野党(自民党など)の反対により2回の区議会定例会で提案できず、民間人教育長を断念。同年12月に教育畑出身の入野貴美子氏を任命した。酒井氏は同年10月、教育長は任期3年で自分は4年のため、次の教育長を民間から選任すれば公約を果たせるという趣旨の発言をした。

 

哲学堂公園再整備「立ち止まって、しっかりと計画を精査し、見直すべきところは見直します」

見直し中。2019年9月にパシコン技術管理株式会社が225万円で落札した哲学堂公園再整備基本計画再検討業務委託は2020年3月末が納期で、区の案も間もなく公表されると思われる。

 

他にも、公契約条例など多くの選挙公約も現在進捗中だったり、あるいは進捗中でなかったりするので、2年後まで見てみないと分からない。あと、どうしたらクリアなのか解釈の余地がある、随分ふわっとした公約もたくさんある。

 

【おまけ】中野区史における酒井区政の位置付け

中野区は革新区政で地方自治への区民参加が大きく進展した成功体験がある。経緯は最近出版された下記の本に簡潔にまとめられている。


自治体研究社『地方自治を拓く 70~90年代の革新中野区政の経験から』小澤哲雄著, 2020年4月.

その後、長年にわたる揺り戻しの時期を経て、2018年に立憲民主党共産党などの野党共闘により酒井区政が誕生した時は、多くの人が喜び期待した。参考⬇️

ところが実際の酒井区政は特に開発や民営化を始めほとんどの点で田中区政を継承しており、その方向で政策を進めている。
酒井氏は区職員時代から新自由主義的傾向が見られたが、支持政党や支持団体が抑えてくれるのではと期待した。残念ながらそうはならなかった。かつての大内・青山革新区政の時代とは、情況と個人の特性の両方が違っていたのだろう。
やはり選挙においては支持母体だけでなく人を見るのが大事、という当たり前の話である。

 

(中野非公式通信)