東京都中野区の平和の森公園には2018年1月まで、上のキャプチャにあるような、見事なケヤキ並木が正面入口(Google Maps)にありました。
しかし、その後、田中大輔前中野区長によって始められた平和の森公園再整備工事(第1工区)の結果、本稿執筆の時点(2019年2月1日)で、この正面入口にはもとの11本のケヤキのうち手前側のたったの4本だけが残っており、その向こう側の7本は無くなっています。
無くなった7本のケヤキはどこへ行ったのか?
本稿では7本のケヤキの行方を追います。
当初の設計イメージ
田中大輔前区長によって策定された「平和の森公園再整備基本設計」(同じもののインターネットアーカイブ)p. 1 によると、平和の森公園の未開園区域に建築される新体育館に既存のケヤキ並木を保全した「エントランス広場」を整備するとあります。
やはり、正面入口の見事なケヤキ並木は、再整備する中野区としてもさすがに無視できなかった、と思いますよね。 実際、同じ文書の p. 3 にも、「体育館前広場 約3,500m²」という文字の下あたりに、19本からなる並木が記載されています。
この絵を見せられた誰もが、凡例での移植樹の色で19個の円が描かれていることもあり、既存の見事なケヤキ並木(と、本数が足りない分はそれ以外の第1工区のケヤキ)を移植して保全する計画なのだと思ったことでしょう。すくなくとも、筆者はそう思っていました。
ところが、同じ文書の p. 5 になると、既存のケヤキ並木を保全したとおぼしき「エントランス広場」の並木は11本に減少します。
うーん、いったい何本、ケヤキ並木を保全するのか。それとも、これは単なるイメージで、本数なんかどうでもいいのか?気になりますね。
当初の図面による考察
そこで、設計図面を見てみましょう。中野区開示の約5,000ページの文書の中の「図面番号17 伐採・移植木リスト」(010-135第1工区公園工事.pdf 5枚目。下図)と、「図面番号16 中高木伐採・移植平面図」(同4枚目)を参照します。
第1工区の外(つまり、第3工区=体育館前広場、または第2工区)へ移植と記されたすべての木に緑色で印をつけてみます(下図)。すると、緑色の印がついたこれらの木は、すべてケヤキでした。全部で13本ありました。
おや。平和の森公園の正面入口の7本のケヤキ並木は、緑色の印(第1工区の外へ移植)になっているではないですか!移植ということなら、移植先の図面もあるはずです。次節でそれを調べます。
なお、「図面番号17 伐採・移植木リスト」の移植先の欄によると、これら13本のケヤキは、第2工区や体育館前広場の工事で本移植が可能になるまで、「仮移植地」に移植され、時期を待つことになっていました。
東京都開示の最新の計画図面
前節で参照した、中野区開示の約5,000ページの文書というのは、第1工区着工前の古いものです。そのあと、実際に工事をやっていく間に設計変更があったのかもしれませんし、実際、出来上がって供用開始した第1工区は、当初、中野区が住民に説明していたよりもはるかに多くの木が無断で伐採されていました。これは笑いごとではなく、中野区民が区長の首を5期目を狙う現職田中大輔から新人酒井直人にすげ替えるほどの大きな問題になりました。
ということで、設計変更の可能性があるので、本節では最新の図面を参照します。
幸いなことに、2018年11月14日(つまり第2工区施工開始を中野区が宣言する前日)に、中野区が東京都下水道局に一方的に送りつけた設計図が東京都から情報公開されてます。4-1 11月14日変更後工事概要資料.pdfの16枚目の「図面番号160 中高木植栽・移植平面図」を見ましょう。
丸の中に、一本一本の木を識別する記号が書いてあります。第2工区や「仮移植地」と関係のある記号(つまり、上述のケヤキ13本のどれかの記号と一致するもの)としては、下図で緑色を付けた3本のケヤキ(K90、K97、C87)しか見つかりません。
K90、K97は本移植となる場所(第2工区内)に記されています。C87は、当初の本移植の予定地が体育館前広場(第3工区)であるため図面の範囲外になり、多目的広場の真ん中に記されています。
これら3本のケヤキは、第2工区を施工開始と宣言した日(2018年11月15日)に、実際に「仮移植地」に植わっていました(下の写真は2019年1月30日に友人撮影。3本のケヤキは左からK90、K97、C87)。ただし、「仮移植地」というのは、体育館工事現場と第1工区のすきまの、第2工区の作業車両や重機、瓦礫がある広場です。
そして、2018年11月15日以来ずっと観察していましたが、悲しいことに、後にも先にも「仮移植地」に植わっていたことがあるのはこの3本のケヤキだけでした。この観察結果は、上述の東京都下水道局が開示した中野区の最新の図面に3本のケヤキに関する記述しかないこととも一致しています。
つまり、当初移植し保全する予定だった、他の10本のケヤキは「仮移植地」に移されることすらなく、その場で伐採されたということになります。
つまり、ケヤキ並木は守られませんでした。
元の場所にあってもじゃまにならなかった、以前と変わらない位置にあるケヤキ4本だけが正面入口にとり残されました。ひどいな中野区。
それでも残された3本のケヤキの行方
本稿執筆日前日の2019年1月31日、K90 が「仮移植地」から第2工区内の空いた場所に本移植されました。
2019/1/31中野区の平和の森公園。友人からの連絡によると「移植工」開始。1枚目の写真、未開園区域に仮移植されていた3本のケヤキのうち1本が掘り出され、2-3枚目、第2工区の、先日「測量工」をしていた場所に移植されました。4枚目は仮移植地から移植先を示した図 pic.twitter.com/8vJSHbDmxT
— 中野区非公式勝手にお知らせしています (@nakanocitizens) January 31, 2019
(追記 2019年2月5日: 本稿初版でケヤキの記号を取り違えていましたが、現在は訂正してあります。)
C87、K97の行方も数日中に判明しそうです。判明しましたら、本稿末尾に追記します。
(く)
追記 2019年2月1日: K97 が設計図どおりの場所に本移植されました。 C87 が「仮移植地」内で微妙に南東側に移動しました。(2019/2/5訂正: ツイート内4枚目の図において木を識別する茶色い字で書かれた記号 K90, K97, C87 は、正しくはそれぞれ K97, C87, K90 でした。)
2019/2/1中野区の平和の森公園。 友人からの報告によると未開園区域に仮移植されていたケヤキ3本のうち、第2工区の1本目の移植先の東に、重機数台、作業員数人で1日かかって2本目が移植されました。1枚目の写真は移植後、2枚目は移植前。3枚目は未開園区域に残った1本。4枚目は仮移植地から移植先の図 pic.twitter.com/C8YNBdIB19
— 中野区非公式勝手にお知らせしています (@nakanocitizens) February 1, 2019
追記 2019年2月2日: C87 を「仮移植地」に残したまま、移植用の重機(TPM: Trans Planting Machine)は工事現場から撤収しました。
2019/2/2(土)中野区の平和の森公園。第1工区から未開園区域に仮移植されていたケヤキ3本は昨日までに2本が第2工区に移植されました。友人からの連絡によると写真1枚目、残り1本を未開園区域に残したまま、2枚目、移植用の重機が工事現場から撤収しましたpic.twitter.com/6r36A3DhdF
— 中野区非公式勝手にお知らせしています (@nakanocitizens) February 2, 2019
(K90 が本移植されると図面上に記された地点へはけっきょく何も移植されませんでした。ただし、この地点には、図面番号161の間伐リスト記載の「B-112 シラカシ」と「B-113 スダジイ」という2本の木が生えているので、これらを間伐(= 伐採)しないとそこへは移植できないわけです。)
追記 2019年2月5日: 「仮移植地」に残されたケヤキに巻かれた緑色のテープに「フジタJV 〈移植〉 C-87 ケヤキ」という文字を確認。 フジタJVは体育館工事の施工業者なので、C87 は体育館前に本移植されると思われます。(訂正: ツイート内3枚目の図で、K90 と K97 は逆です。)
2019/2/5中野区の平和の森公園。友人からの報告によると、仮移植地に1本残されたケヤキの緑テープに「フジタJV 〈移植〉 C-87 ケヤキ」の文字。隣接地で建設中の体育館の施工業者(2枚目写真参照)が今後、体育館敷地に本移植すると思われる。3枚目の図は伐採を免れたケヤキ3本の現状 pic.twitter.com/kCehNpw2dd
— 中野区非公式勝手にお知らせしています (@nakanocitizens) February 5, 2019
追記: 残された3本のケヤキのうち2本(K97, C87)は枯れてしまいました。2019年8月5日現在、生きているケヤキはK90だけです。
2019/5/29(水)中野区の平和の森公園第2工区。知人からの写真4枚。1枚目、草地広場北東角に野積み発泡スチロールさらに増加。2-3枚目、雑に掘り出されちぎれた古い不織布が盛土中に雨に洗われ白く点々と。トップライト閉塞は手付かず。4枚目、第1工区から第2工区に移植されたケヤキ2本のうち1本枯れた? pic.twitter.com/6Xwi2zGIgc
— 中野非公式info(自称) (@nakanocitizens) May 29, 2019
2019/6/16(日)中野区の平和の森公園第2工区。友人の写真。第1工区からただ1本未開園区域に移植されたケヤキ https://t.co/SGdLYmZHFk は完全に枯れました。新体育館広場に移植すると中野区が住民に約束した他の10本はあっさり伐採されています。2-3枚目は来週の工事予定 pic.twitter.com/ucUT2khb0k
— 中野非公式info(自称) (@nakanocitizens) June 16, 2019
参考文献
- 本稿で取り上げた田中前区長の「平和の森公園再整備基本設計」が決定される前に、中野区が出してきた案(ポンチ絵)の変遷がよくまとめられているブログ。案が具体化するに従い、緑色で描かれた草地と木がみるみる減っていくのが読み取れます。
- 「(仮称)中野区立総合体育館」の管理運営等に関する意見交換会の資料(2019年2月2日 @新井区民活動センター、
2019年2月5日 @中野区役所)。4ページ目の体育館前広場の画像から、保全されるはずだったケヤキ並木が消されています(下の画像)。なんだ、中野区、ケヤキ並木が守られなかったことを自覚してるんじゃん!なお、この資料は2/5で消去されるので、それ以降はインターネットアーカイブをご参照ください。
中野区作成の資料から抹消されたケヤキ並木(Feb 2019)