概要
・2020年度まで継続中の中野区シティプロモーションですが、それより1年早く、博報堂との契約は2019年度末で終了しました。
・博報堂が区に提出した自己評価っぽい報告書を情報公開請求したところ、開示された文書は黒塗り(いわゆる「のり弁」)でした。
(この話は先月書くつもりで、私事多忙のため遅くなりました。すみません)
2020/5/24記
契約終了
2020年4月、中野区役所に件の情報開示文書を受け取りに行った際、担当職員から意外な言葉を聞きました。
「博報堂との契約は3月末で終了しました」
博報堂との契約は、確かにもともと単年度契約でしたが、中野区シティプロモーションは2020年度まで3カ年度の計画です。2018年6月の最初の契約書にもその旨が書かれ、2019年度は契約更新されました。
2020年度に契約更新されなかった事情について、担当職員は「区議会などでのいろいろな議論」を挙げました。
博報堂以外への委託も検討したようですが、結局委託はせず、3年目の中野区シティプロモーション(予算約1700万円)は「中野区に関わる人への方向にシフト」することになった、ということです。
なお中野区シティプロモーションの担当部署は、2018年の発足時は当時の都市政策推進室(中野区議会では建設委員会)にあり、2019年4月に区民部(区議会では区民委員会)に移り、さらに2020年4月に担当職員ごと企画部に移りました。今後区議会では総務委員会の扱いになると思われます。
2018年10月1日に鳴り物入りでオープンした、博報堂の中野区シティプロモーションサイトはなくなりました。一部データは中野区ホームページに移動。
インターネットアーカイブをチェックしたら、在りし日の中野シティプロモーションサイトのトップページなどが保存されていました。下は2019年7月14日現在のデータです。
中野区シティプロモーションといえば、物議を醸したキャラクター人形ナカノさんですが、区議会での答弁によると著作権は中野区にあるとのことで、3年目も使う場合であっても使用料は生じないはずです。
著作権については、中野区に全てあります。
(桜井区民部観光・シティプロモーション担当課長、2019年10月8日中野区議会区民委員会)
あと、中野区のプロポーザル仕様書に「動画」、博報堂の提案書に「ブランドムービー制作」と書かれていて、どうなったんだろうと地味に気になっていました。無事に公開されたようです。
費用対効果
博報堂との契約金額は2018-2019年度に合計1億円を超え、区議会で費用対効果が問題となっていました。2019年9月現在の経費内訳は下記のように説明されています。
「ナカノさん」関連事業の経費でございますけれども、平成30年度は人形の制作に約369万円余、PR動画の作成に約676万円余、ポスターの制作費に約313万円余、広報活動――駅前の仮囲いですね、こちらに約395万円余、SNSの発信費用として約286万円余の経費となってございます。また、平成31年度はキーホルダーの会員証やPR用の掲示物などのPR制作物に約854万円余、またSNS発信費用として約1,718万円余の経費がかかってございます。
平成31年度の予算ですけれども、ワークショップに約1,723万円、シティプロモーションのウェブサイトの運営費に約1,287万円、イベントの実施、マスメディアを介した情報発信などのPR活動費に約1,863万円の経費がかかってございます。
(桜井課長、2019年9月20日中野区議会決算特別委員会)
それだけのお金を使った宣伝の効果について、区は次のように答弁しました。
区をPRしたメディアの関係ですね、それが広告換算費として出るんですけども、この9月の頭の時点で1億4,000万円程度というふうに言われています。いろいろなメディアに、テレビだとかウエブメディアとかに取材とか、取り上げられたというところで、一つ金額が見えるところでは、そこの広告換算費というものがございます。
広告代理店である博報堂が、ルールに基づいて換算するものなんですけど、このナカノさんプロジェクトから始まって、今現在、合計で約1億4,000万円という金額が出てございます。
広告効果ということで、例えば雑誌に一つ載るにも、載せてくださいと言って、そこが金額がかかるものなんですけれども、一切そういうお金を使わずに、話題だけで取り上げていただいているというところで、広告効果ということで1億円程度です。
(桜井課長、2019年9月26日中野区議会決算特別委員会区民分科会)
2020年度は予算300万円
(追記)
中野区シティプロモーションの予算は、新型コロナウイルス感染拡大による財政逼迫を理由に、2020年度約1700万円の大部分を削られ、残りは約300万円となりました。6月8日、区議会に報告されました。
中野区で2020年2-3月に自公が予算修正を提案した後撤回した減額項目、今回の新型コロナによる財政逼迫で結局多くが削減された。児童館の木製おもちゃ、UDフォント、便利帳、教育大綱パンフ、シティプロモーション費の大部分など。6/8区議会に報告https://t.co/mWLfkC6aX6
— 中野非公式通信 (@nakanocitizens) June 16, 2020
(追記ここまで)
情報公開請求
議事録が公表されたあと、2019年12月18日に中野区ホームページから電子申請で情報公開請求しました。
令和元年09月26日中野区議会決算特別委員会区民分科会で、桜井区民部観光・シティプロモーション担当課長が「区をPRしたメディアの関係ですね、それが広告換算費として出るんですけども、この9月の頭の時点で1億4,000万円程度」と発言した件に関し、
(1)当該広告換算費試算委託の入札と契約に関する文書の一切。
(2)当該広告換算費試算成果物の一切。
担当職員から電話があり、 (1)については報告書は博報堂との契約の一部でありこのために特に入札や契約は行っていない、(2)については、1億4000万円のうち2018年度分は「平成30年度中野区シティプロモーション推進支援業務委託報告書」という文書があるが、公開していいか博報堂に聞く必要があるとして「延長」になりました。
真っ黒
延長後に2020年2月17日付で出た区政情報一部公開決定通知書です。(申請者の名前は私が白塗りにしました)
公開期間(区役所に文書を取りに行く期間)は3月3-16日でしたが、公開日がまだ指定されてないと勘違いしていて、文書を取りに行ったのは4月21日になってからでした。
公開された「平成30年度中野区シティプロモーション推進支援業務委託報告書(抜粋)」
全部で4枚。2018年度の中野区シティプロモーションの露出件数は、テレビ1件、新聞15件、雑誌1件、ウェブ73件の合計90媒体、広告換算額は合計8055万1417円となっています。内訳は全て黒塗り。
中野区は黒塗りの理由を、区政情報一部公開決定通知書の中で「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)に関する情報で、当該情報を公開することにより、事業上明らかに不利益を与えると認めるため。」としています。担当職員は「事業者が、技術的情報が入っており出してほしくない」ということだと説明しました。
なお、8055万1417円は2018年度分で、2019年度分の業務委託報告書も現在までに区に提出されています。担当職員によると、2019年度末までの2カ年度分の広告換算額は合計約1億6000万円だそうです。
しかしいずれも博報堂の自己申告です。今後第三者による費用対効果の検証が待たれます。
私見
田中大輔前区長が計画した中野区シティプロモーションは、内容を若干変えて酒井直人現区長が引き継ぎ、2年弱の間に大手広告屋に1億円以上もの税金が費やされました。それで実際どれほどの効果があったのかは、今後区議会決算特別委員会などの場で検証されるでしょう。
それにしても、中野区シティプロモーションの目的だった、区への愛着醸成や定着促進って、広告で実現できるようなものでしょうか。それを阻害する要素がある時に、実際に良くするよりも広告で良く見せれば手軽で安上がり、みたいなことは、前世紀のやり方だと思います。本質的問題に対処しなければ矛盾は大きくなるばかりです。貴重な人的財政的リソースは住民の幸せのために使ってほしいです。
つづきの記事
これまでの経緯などは下記リンク先の各記事をご覧ください。
博報堂の仕事の残念だった点
例えばこんなところです。
リンク先ブログ書いたあと、中野区シティプロモーションサイトを約1年ぶりに見たら、2018年10月開設時「市民」って書いてたの「区民」に直ってた。23区自治体サイトで住民を「市民」と書くと物凄い違和感があることぐらい博報堂は今後の商売のため覚えておいた方がいいと思うhttps://t.co/6AQrzvaEj6
— 中野非公式 (@nakanocitizens) December 17, 2019
シティプロモーションのサイトでは、写真が適切でないのも気になっていました。この写真は明治大学中野キャンパスから南西方向を撮影していますが、赤線で示したように、おもに写っているのは杉並区内の住宅と公園です https://t.co/UWX2bMN9yH pic.twitter.com/K7xWix2rk4
— くろねこ (@orangkucing) January 23, 2020
中野区のナカノさんのポスター。永田町を永田と呼ぶことはまず無いように、弥生町を弥生と呼ぶことは滅多にない。(弥生区民活動センターとかは言うけど)地元への愛着を訴えようとするのに地元民の使わない地名使っちゃダメでしょ。はい刷り直し。 pic.twitter.com/gxxqbDXH7c
— 中野区議会議員 小宮山たかし (@komiyamatakashi) February 1, 2020
ナカノさんが考案されたのは、2018年度のワークショップでの議論が元ってことになっています(実際は多分違うと思われますが)。このワークショップは博報堂が企業と大学の関係者を集めて行い、区民は公募されませんでした。自治体イメージの宣伝というよく分からない案件にしろ、巨額の公費が動くのですから、住民の参加を排除すべきではなかったと思います。
中野区にはかつての革新区政での住民参加と住民自治の獲得と、その後の揺り戻しの歴史があります。そのような地元の事情や背景に注意を払わないかのようなやり方は、最初から筋が悪かったという他ありません。なお揺り戻しの主力を担ってきた区議会自民党が、今回の中野区シティプロモーション批判の急先鋒だったのは、興味深い事実です。
中野区の革新区政とその後の揺り戻しについては、元中野区議(共産)の小澤哲雄氏が簡潔に書き記した本が最近出版されました。興味ある方はご参照ください。
自治体研究社『地方自治を拓く 70~90年代の革新中野区政の経験から』小澤哲雄著, 2020年4月.
元中野区議会議員小澤哲雄氏の著書を読みました。Amazonにこの本の書評がありますよ https://t.co/PKQzFycSis
— くろねこ (@orangkucing) May 21, 2020
最後に、キーコンセプトについて
2019/9/26中野区議会決算特別委区民分科会 立憲森たかゆき区議”好きなように生きられない制度をつくっているのは政治と行政なんです。それを行政が「好きなように生きていれば」って言い切っちゃうのは、私は行政の姿勢としてどうかな、好きなように生きられない人にもっと寄り添う行政であってほしい“ pic.twitter.com/4dO3ABv2PW
— 中野非公式 (@nakanocitizens) February 23, 2020
「好きなように生きていれば、たいがいのことは気にならない。」は、中野区シティプロモーションとキャラクター人形ナカノさんの、あまり評判のよくないキーコンセプトでした。こういうふわっとした精神主義みたいなものは、やっぱり前世紀の遺物で古臭かったのではないでしょうか。
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中野区のお知らせ掲示板に貼られた中野区シティプロモーションの地域版ポスター。2020/3/4東京都中野区中野五丁目で撮影
中野区シティプロモーションのパロディポスター。2020年4月知人作成
ウェブ記事に中野区シティプロモーションをプロモーションする酒井区長の講演が。1年くらい前の記事かと思ったら「2020年5月号」。何だこりゃ。