旧中野刑務所正門「接道条件」中野区の理由付けがデタラメ(2021年2月)

概要

・中野区が2019年に発表した「現地保存」決定を覆し2020年11月に「曳家」(移築)に方針転換した旧中野刑務所正門。移築の理由に用いられた「接道条件」について、中野区の説明がおかしい。そもそも旧中野刑務所正門に接道は必須ではない。「接道条件」は、何が何でも曳家に変更するために中野区が用いたデタラメな理由付けだ。

・中野区職員が区教育委員会で、現地保存より曳家が容易との議論が中野区文化財保護審議会であったかのようなデタラメな報告をした。なぜそんなに曳家したいのか。2021/2/6記

旧中野刑務所正門「接道条件」とは

旧中野刑務所正門は、平和の森小学校移転予定地である法務省矯正研修所跡地(東京都中野区新井)にあり、東京都下水道局の通路に面している。中野区は、下水道局通路は建築基準法上の道路ではないため、門を現地で保存するためには、通路とは別に移転後の学校敷地内に東側平和公園通りに通じる道路を作り接道条件を満たす必要があるとしている。道路を作れば学校敷地が余計に狭くなるというのが、2020年に中野区が現地保存方針を撤回して移築に転換した際の理由のひとつとして用いられた。

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下水道局通路を通って下校する平和の森小学校の児童と旧中野刑務所正門。
画面左奥が平和公園通り。中野区は門を画面右方向に100メートル曳家する計画
(東京都中野区新井、2019/4/1(く)撮影)

旧中野刑務所正門への接道は必須ではない

理由(1)中野区文化財保護審議会: 文化財指定で適用除外

中野区文化財保護審議会は 2020年7月に中野区教育委員会に提出した答申の中で建築基準法の適用除外については、文化財指定をしていることが条件となる。」として、文化財指定がされれば建築基準法の適用除外となり、接道条件などはクリアできることを指摘している。実際、答申の最後に添付された図に「接道要件を満たすための通路」は記入されていない。

https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/651500/d028220_d/fil/20200821j10.pdf

中野区教育委員会はこの答申をもとに意見をまとめ、中野区はその意見を受けて門の取り扱いを決定した。しかし教委、区ともに、答申のこの部分は無視した。2020/8/28教委定例会で門を移設する必要があると説明するために教育委員会事務局が作成した参考図(下図)には「接道要件を満たすための通路」(建築基準法の定める接道義務)がわざわざ記載されている。

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理由(2) 小学校と一体に扱えば接道不要

旧中野刑務所正門を、移転後の平和の森小学校の敷地の一部として扱うならば、学校の敷地は接道しているため、門の敷地に独自の接道は不要だ。中野区はあえて門を小学校とは別にして扱い、接道が必要と強弁している。

本当のところは、敷地は一つのものとして扱うことも、分けて扱うことも可能なのだが、このことを理解するために、たとえば隣接する平和の森公園を見てみよう。

建築物たち(下水道局の建物群、中野総合体育館、じゃぶじゃぶ池のパーゴラ(あずまや)、西側パーゴラ、南西側トイレ)は、建築基準法上その全部が一つの広大な敷地に建つ扱いになっているということが、中野総合体育館の建築計画概要書(30第0640号。地番: 新井3丁目45番8、16)を閲覧した区民によって確認されている。その広大な敷地は東側の平和公園通りと西側の4m道路の両方で接道しており、公園内の舗装された園路が建築基準法上の道路というわけではないのだ。そのうえ、公園部分と下水道局の建物群の間には柵や段差や入口のない壁があり、柵を設置するから別に扱う必要があるわけでもないのがわかるだろう。

そもそも建築基準法は自己責任の考え方に立っており、管理主体が一体的であるひと繋がりの敷地に関しては、もし敷地内部の柵が障害物となって火災からの避難等で事故が起こったとしても、そんなことは管理主体のせいであって、行政は知らないよという法律である。だから、広い敷地を一体的に扱うか分割して扱うかは管理主体の自由であって、たとえば建ぺい率とか容積率とかで得をすると思ったら分割して扱えばよいだけの話である。

実際、小学校移転用地が法務省矯正研修所だった当時、法務省は敷地内部に柵がないのに広い敷地を分割して扱った。このことは、今も現地に立つ色褪せた地図看板(下の写真)に記された、それぞれの建物(廃墟)へ到達する幅員4m(入口付近では5.9m)の車道を見ればわかる(末尾注も参照のこと)。

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法務省矯正研修所当時の様子がわかる地図看板
(東京都中野区新井、2021/2/6(く)撮影)
現地保存方針の時は接道不要としていた

中野区は、2018年から2019年にかけて、現地保存方針を説明した際には、門と学校敷地は一体、門は「工作物」として扱うことで、接道は不要とした。

2018/10/5中野区議会子ども文教委員会。石原子ども教育部、教育委員会事務局副参事(子ども教育施設担当)

現在、矯正研修所跡地の北側につきましては、道路上に整備してございますが、そちらにつきましては、下水道局の管理用通路であり、道路ではございませんので、現状の状況を踏まえた計画をするというところで、接道しているところにつきましては、東側の道路が接道部分になりますから、そこから門に行くまでの通路及び見学スペースというところを想定して計画しているところでございます。

2018/12/7区議会厚生委員会。平田健康福祉部副参事(文化・スポーツ担当)

前に委員会報告で、教育委員会のほうで作成した校舎のイメージ図がございます。10月の厚生委員会の御報告に用いた図なんですが、そちらの図では、門に通じる通路というものを校庭内に確保してございました。これは、門が建築物に当たるというふうに想定して確保した通路でございますが、今回、門の保存に当たりましては、通路要件を必要としない、建築物ではない工作物として保存するということを考えてございます。つまり、接道要件が必要なくなるということがございます。

2019/2/25区議会予算特別委員会。石原副参事

1月末にお示ししてございます平和の森小学校の基本構想・基本計画案におきましても、門と学校の敷地につきましては建築基準法上一つの敷地としてみなして計画しているものでございます。

方針転換時また接道条件持ち出す

中野区は門の現地保存方針を撤回するために、2020年に接道条件を再び持ち出した。まさに朝令暮改

2020/10/7区議会子ども文教委員会。戸辺教育委員会事務局次長

この刑務所正門は建築物ではないという前提の下でやっていたわけでございます。ただ、今回の場合、耐火、耐震化等を施して修繕しなさいということまで言われていますし、そうなった途端、手を入れた途端に建築物になってくるわけですね。そうすると、一定の敷地と道路の接道要件を満たさなければならない。

戸辺教育委員会事務局次長は2020/12/23の区民への説明会でも接道が必要と説明した。 

理由(3)国交省ガイドライン: 歴史的建造物は接道しなくてもいい

仮に小学校とは別の施設として扱ったとしても、歴史的建造物に接道は必ずしも要求されない(ここで、歴史的建造物は文化財指定を前提としていないことにも注意)。

国土交通省は『歴史的建造物の活用に向けた条例整備ガイドライン』で「接道や道路内建築制限、高さ制限等への適合が困難な場合については、新たに不適格部分を生じさせないことを条件として、既存不適格の継続を認めている事例もある。」として容認している。

「歴史的建造物の活用に向けた条例整備ガイドライン
https://www.mlit.go.jp/common/001244018.pdf

情報開示によると中野区はガイドライン検討せず

2020/12/23の区民への説明会で戸辺教育委員会事務局次長がまた接道条件を持ち出したことを聞き咎めた区民が、この『歴史的建造物の活用に向けた条例整備ガイドライン』を検討したことがあるのかどうか、情報公開請求をした。結果は検討した文書不存在。

この不存在通知を受けて、その区民がさらに問い合わせをしたところ、中野区教育委員会事務局子ども教育部施設課は、国土交通省の『歴史的建造物の活用に向けた条例整備ガイドライン』という文書について、存在は知っているがまったく考慮していないし考慮する予定もない旨をメールで返答した。

また、区民が酒井直人区長にこの国土交通省の文書の存在を知っているか否かを1月29日にメールで質問したが、本稿の時点でまだ回答が得られていない。

中野区職員は審議会答申について「現地保存より曳家の方が容易」とデタラメを教育委員会に報告

文化財保護審議会への諮問を区職員が答申

一般的に、下部組織の委員会が答申をする際、委員長が来てじきじきに答申を読み上げ、質疑にも応答するものだと思う。しかし、中野区文化財保護審議会教育委員会に答申をする際はそうではなかった。なんと、区民部区民文化国際課長が文化財保護審議会を代理して答申を読み上げ、質疑に応答しているのだ。

2020年11月下旬に公式ウェブページで公開された、2020年8月21日の教育委員会会議録がこの時の非公開議事「事務局報告: 中野区文化財保護審議会への諮問について(答申)(区民文化国際課)」の様子を記録している。

教育委員の質問に区職員が答弁

会議録によると、文化財保護審議会(秘密会。傍聴不可)の答申を矢澤課長(区民部区民文化国際課)が読み上げた後、伊藤教育委員の質問に矢澤課長が答弁している。

2020/8/21中野区教育委員会定例会。矢澤区民部区民文化国際課長

2の(1)の、現状の地上面よりも沈んだ状況になっていることにつきましての対応としまして、その場の現地保存で残すのであれば、先ほど伊藤委員がおっしゃったように揚家、あるいは排水施設を整えたりとか、現地保存するならするで、よりハードルが高いと言いますか、そういった対策が求められるところでございます。

そう考えますと、例えば曳家を選択するに至った場合、そういった建物の高さと合わせるという点におきましては、現地保存するよりも容易であるという見解も出ているところでございます。

議事要旨にはない文化財保護審議会の見解

さて、矢澤課長の答弁は文化財保護審議会での審議を踏まえたもののはずなのでこれを確かめよう。

下に貼った文化財保護審議会2回分の議事要旨は、区民が情報公開請求して2020年10月7日付けで入手したものだ。この議事要旨に関しては本ブログの別記事でも述べた。

議事要旨を見る限りでは矢澤課長の言うような「現地保存はよりハードルが高い」とか「曳家を選択するに至った場合、現地保存するよりも容易であるという見解もでている」とか、そのような曳家を推す意見は文化財保護審議会の審議で委員から発言がない。しかも文化財保護審議会は秘密会で傍聴不可だったので、密室の議論をこの議事要旨以外で確認する術はない。

答申を取り次いだ区職員の見解が教育委員会の意見に反映

上で見たように、もし、文化財の素人である一介の区職員(矢澤課長)の私的見解が文化財の専門家の権威ある見解と誤認され、教育委員会の意見ひいては区の文化財保護の方針を左右したということなら、これは大問題ではないだろうか。

注: 下水道局通路について

上で述べたように、下水道局通路に関しては、下水道局は自分の敷地に接する道路として扱わずに中野総合体育館の建築確認(30第0640号)を取った。それは東側の平和公園通りと西側の4m道路の両方に接するというだけでそれ以外の接道は必要がなかったからだ。

ところが、法務省は矯正研修所を改築した際、下水道局通路も自分の敷地に接する道路として扱い、建築確認を取った。そのことは、上に写真を貼った現地の地図看板で、下水道局通路にも幅員表示(下の拡大画像の紫丸印の部分)があることからわかる。

法務省は自分の敷地の接道条件をものすごく余裕をもってクリアしていたのだ。

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(中野非公式通信) & (く)

 

 

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