中野区立桜山公園工事は死亡事故の再発防止策として「曳家」からクレーンに工法変更されていた (情報公開、2022年2月)

桜山公園事故続報〉

2021年2月、中野区立桜山公園の改修工事で「曳家」によるトイレのユニット設置の際に作業員が死亡する事故があった。元請の住友林業緑化株式会社は、桜山公園と江原公園の公園ユニバーサルデザイン改修工事を一括で中野区から受注したのだが、死亡事故が起きた桜山公園は曳家、江原公園ではクレーンによってトイレを設置していた。別々の工法を採った理由は明らかではない。
事故のあと、再発防止策として桜山公園のトイレ設置も、曳家ではなく「クレーン作業」に工法が変更されていたことが情報公開請求でわかった。開示文書は「犯罪捜査に関する情報は非公開」としてほぼ黒塗りだった。
曳家で死者が出たことは、中野区が計画している旧中野刑務所正門(旧豊多摩監獄表門)の曳家による移築に影響するだろうか。2022/2/28記

ひきや【曳家・引家】
建築物を解体せずにそのまま水平移動させて、他の場所に移すこと。曳舞。
大辞林 第三版

桜山公園工事と事故について

桜山公園の基本情報

🌸 中野区立桜山公園 🌸

住所: 東京都中野区東中野三丁目22番。東中野駅西口より徒歩8分
面積: 2,757.16平方メートル
施設: 砂場、すべり台、鉄棒、シーソー、水飲場(車椅子対応あり)、トイレ(車椅子対応あり)、健康遊具。子ども専用キャッチボールコーナーあり
(中野区公式ホームページより)

事故当時の詳細は前回記事で

2021年2月16日、中野区発注の桜山公園改修工事で、曳家によるトイレユニットの設置作業中に死亡事故が起きた。事故直後の段階でわかったことと、工事の休止・再開を経て再開園するまでの詳細については下記記事参照。

この前回記事は、事故直後の遺族や関係者への配慮から、地の文に公園名などの固有名詞を記載することを避けた。1年ほど時間が経ったため、今回の記事には公園名、施工業者名とも明記している。

事故翌月の中野区立桜山公園と桜。中央の白いシートが事故発生場所。事故原因のトイレユニットは撤去済み。2021/3/24(く)撮影

労基署による桜山公園事故概要

桜山公園事故の概要は、2021年11月に作成された「新宿労基署管内令和3年建設業3大災害事例」によると次の通り。

年齢: 50歳代
職種: 曳家工
休業期間: 死亡
災害発生状況の概要: 公園改修工事現場において、トイレの設置作業中、トイレ(約10t)のバランスをとるため4か所のジャッキで受けていたところ、 1か所が突然沈み込んだため傾き、その場所にいた作業員が挟まれた。

下は当該事例のキャプチャ。

事故発生時のTBSニュースのキャプチャ。

住友林業緑化が江原公園と一括で受注

2020年12月2日中野区議会総務委員会資料「予定価格5千万円以上の工事請負契約の入札結果について」によると、桜山公園と江原公園の公園ユニバーサルデザイン改修工事は、2020年11月20日一般競争入札(総合評価方式)で住友林業緑化株式会社(中野区中央)が落札した。契約額は1億2707万2000円、予定価格は1億2918万700円(いずれも税込)、落札率は98.3% 。

荒木建設工業株式会社という区外企業が住友林業緑化より低い価格で応札したが、最低制限価格未満のため落札できなかった。なお公園ユニバーサルデザイン改修工事というのは多目的トイレ設置や出入口のバリアフリー化などで、都の補助金が受けられる。

桜山公園は曳家、江原公園はクレーンで施工

2021年3月12日中野区議会建設委員会での区担当者の説明によると、桜山公園と江原公園は1本の契約による公園ユニバーサルデザイン改修工事だが、トイレ改修の工法は相異なっていた。

死亡事故が起きた桜山公園は曳家、江原公園はクレーンでの吊り上げ設置が、トイレのユニットを据え付ける工法だった。

別々の工法を採った理由は、会議録に記録されている部分では説明されていない。区担当者が工法の説明を始めた途端に委員会が休憩に入っているので、記録に残らない休憩中に何らかの説明がされた可能性はある。

江原公園のトイレ改修工事は撮影していない。下の写真は、中野区の前年度の公園ユニバーサルデザイン改修工事が行われた新井薬師公園である。クレーンで吊る工法によってトイレの屋根が据え付けられているところだ。

新井薬師公園の公園ユニバーサルデザイン改修工事。2020/2/23撮影

なお2018年春にかけての ぱんだ公園の改修工事では、トイレの移設が曳家により行われた(新井薬師公園、ぱんだ公園とも業者は桜山/江原公園工事とは異なる)。

工事の設計は区内企業のエーシーイー

桜山公園は曳家、江原公園はクレーンという相異なる工法でトイレを設置することは、設計の段階から決まっていた可能性もある。両公園の公園ユニバーサルデザイン改修工事の実施設計は、2020年5月7日の希望制指名競争入札で株式会社エーシーイー(中野区松が丘)が858万円(税抜)で落札している。

別件死亡事故と安全管理徹底要請

別件ではあるが、桜山公園事故の半年後、2021年8月3日に同じく中野区発注の旧美鳩小学校解体工事で死亡事故が起きた(これも業者は桜山/江原公園工事とは異なる)。上掲の「新宿労基署管内令和3年建設業3大災害事例」によると概要は次の通り。

旧美鳩小解体工事事故発生時のテレ朝ニュースのキャプチャ↓。

この事故を受け中野区は「今回の現場だけでなく、現在区が発注しているほかの全ての工事現場における施工業者に対しまして、改めてさらなる安全管理の徹底を求めて」いく方針を区議会と教育委員会に報告した。

情報公開請求

桜山公園の事故について「中野区が庁内で作成し、又は、業者に提出し若しくは業者から取得した文書」を私たちの仲間が情報公開請求し、2022年2月7日に一部公開決定された。区政情報一部公開決定書

開示文書一覧(ほぼ黒塗り)

開示された文書は次の通り。件数は多いが、一部公開ということで、事業者の個人情報と印影、犯罪捜査に関する情報は非公開とされた。結果、肝心の部分はほぼ黒塗りだった。以下で各文書の概要を示す。

2021/2/16(事故当日)連絡票(第1報)

リスク管理・危機管理情報連絡表(第1報) - 事故当日2021年2月16日の中野区公園緑地課の担当者による部内向け連絡。工事請負契約書が添付されている。発生事態、対応、ユニットトイレの施工フロー図、状況報告が黒塗り

2/17事故報告書、工事中止の文書

事故報告書 - 原因及び経過、状況報告が黒塗り。

次の4件は事故による工事中止に関する文書。

協議書「工事一時中止について」 - 事故発生時の現場の状況が黒塗り。
承諾書「江原公園・桜山公園についての一切の工事一時中止」
工事現況報告書について(2回目)
公園ユニバーサルデザイン改修工事に関する工事中止書について - 経緯の最新項目が黒塗り。

2/26工事延伸の文書

公園ユニバーサルデザイン改修工事の工期延伸に係る契約変更の締結依頼について - 事故を受けた工事中止で工期延長の契約変更。

3/19原因と再発防止策報告書

桜山公園事故発生原因と再発防止対策についての報告書」- 住友林業緑化から中野区への報告書。8章にわたって発生原因と再発防止策が記された文書だが、ほぼ黒塗りで、事故についてほとんど何もわからない。

曳家から「クレーン作業に変更」

報告書の内容は次の通り。

表紙~1章「評価結果に基づく問題点の抽出と分析」
ほぼ黒塗りだが「対策」として「トイレ設置時の施工方法の変更」「曳家作業→クレーン作業に変更」と記載されている。また「撤去作業時に、35tラフターで作業検討を実施済み」とあるので、事故後間もなく事故原因のトイレユニットはラフター(ラフテレーンクレーン)で撤去されている。このことは、桜山公園ではクレーンで作業できない事情があって曳家が用いられたわけではないことを示唆している。 発生原因は全て黒塗りされているのだが、隣に書かれた再発防止策から推測するに、安全確認が不十分だったほかに、悪天候時(またはその直後)に重機を用いた作業をしたのではないかと思われる。現場に近い練馬のアメダスによると、当日は晴だが、前日(2/15)に47.5mmという約2週間ぶりの降水が観測されている。
また、再発防止のための再教育で、元請の責任についての規定(安全衛生法15条、30条)への参照があるので、作業員ではなく監督者の過失を認めていると考えられる。
2章「事故詳細」- 曳家工事の写真の一部が黒塗りされずに見ることができる。
3章「事故までの経緯と評価」- 全て黒塗り。
4章「事故報告書」- ほぼ黒塗り。
5章「残工事の図面」- 公開。
6章「工程表」- 個人名を除き公開。2月16日作成の新たな工程表。
7章「仮設計画」- 公開。
8章「工事再開後の体制」- 個人名を除き公開。

原因と再発防止策は区議会に報告されていない

桜山公園の事故に関しては、旧美鳩小学校工事死亡事故とは異なり、事故直後に区議会には報告がなかった。上記3月12日の建設委員会で、工期延長による予算処理の議決の際に若干の説明があったのみだ。今回黒塗りで開示された原因と再発防止策についての報告書は、区議会には概要はおろか存在さえ報告されていない。区発注工事で死亡事故などの重大事故をどうやって防ぐかということは大事な問題ではないのだろうか。

3/24工事再開の文書。再発防止策「クレーン作業へ変更」明記

公園ユニバーサルデザイン改修工事に関する工事中止解除書について - 上記報告書を受けた工事再開に関する文書一式。「工事再開承諾願」に再発防止策として「トイレ設置時の施工方法の変更 曳家作業→クレーン作業へ変更」が明記されている。

4/15最終の連絡票

リスク管理・危機管理情報連絡票(最終報) - 第1報と同様、状況や原因など全て黒塗り。桜山公園の再開予定が記載。再発防止策として曳家作業の代わりにトイレ設置に用いるクレーンは、事故ユニット撤去時と同様35tラフターであることが記されている。

事故原因のトイレユニットは事故後間もなく撤去されていたが、このあと新たなユニットがクレーンで設置された。

旧中野刑務所正門の曳家への影響は

中野区は、旧中野刑務所正門(区文化財・旧豊多摩監獄表門)を総工費5億円で曳家により移築する計画だ。今回、桜山公園では死亡事故を受けた再発防止策として、トイレ設置の工法が曳家からクレーンに変更されたことが明らかになった。つまり、曳家が危険な工事だからクレーンに変更された。このことは、比較すればはるかに難工事が予想される旧中野刑務所正門の曳家計画に影響しないのだろうか。

当ブログの曳家に関する記事は下記参照。

旧中野刑務所正門に関する記事は下記参照。

つづきの記事

(中野非公式通信) & (く)