一騎討ちの中野区長選は現職酒井直人再選、混戦の区議補選は自民当選(2022年5月)

2022年5月22日の東京都中野区長選は、現職酒井直人が対立候補との一騎打ちを制し再選された。酒井票は4年前の前回選挙から大幅増。選挙結果や前回までの選挙との比較を用いて要因を簡単に考察した。同時に行われた中野区議補選は6人が立候補し、自民新人が当選した。敬称略。2022/5/23記

考察のまとめを記事末尾に記した。5/26追記

酒井出馬表明から選挙戦終盤までの出来事は下記記事参照。

選挙結果

中野区長選

5月22日の中野区長選と区議補選の開票は23日午前8時から中野区立総合体育館で行われ、いずれも10時20分に選挙結果が確定した。

  候補者   得票数
現 酒井直人 立/共/ネ/都-応援 55,318
新 稲垣淳子 自-支部推薦 34,564

区長選の投票率は33.72%で、前回2018年の34.45%を0.73パーセンテージポイント下回る微減だった。

中野区議補選

昨夏の都議選に立候補するため自民党区議が辞めた欠員を埋める区議補選は、定数1を主要政党が出揃う6人で争う混戦だった。自民新人(公明応援)が当選した。

  候補者   得票数
新 生藤  健人 自民(公明応援) 23,413
元 細野 かよこ 生活者ネット(立憲応援) 19,719
新 黒沢  ゆか 都ファ 18,531
元 広川まさのり 共産 12,901
新 斉藤 けいた 維新 10,940
新 大木けいいち 無所属 3,453

補選投票率は33.71%。前回の34.42%を0.71ポイント下回りこちらも微減。

中野区選管のホームページに掲載された中野区長選と区議補選の結果は下の画像の通り。

区長選の推薦支持関係

前ブログの再掲になるが、中野区長選の政党などの主な推薦・支持関係は次のようだった。

酒井直人(現職)
応援-立憲、共産、生活者ネット都ファ、無所属近藤、立石両区議

稲垣淳子(対立候補、前無所属区議。元都ファ)
支部推薦-自民(杉田水脈衆議院議員激励)
応援-田中大輔前中野区長、吉田(排外主義団体との関係が指摘される)、N党竹村両区議

公明-自主投票(区議補選は自民応援)
維新-自主投票ということだが他自治体の維新議員が稲垣応援

補選後の中野区議会の構成

稲垣が議員辞職せず自動失職したため、区議補選の定数は2にならず1のままで行われた。その結果、定数42人の中野区議会は、下記の通り補選後も来春の区議選まで欠員1のままだ。

補選後の中野区議会計41人(定数42、欠員1)の内訳

・与党15(立憲9、共産6)
・野党17=議長を除くと16(自民9=議長を除くと8、公明8)
・無所属9(むとう/近藤/石坂/小宮山/立石/吉田/竹村/内野/渡辺)

非区長派無所属の稲垣が辞職したが入れ替わりに補選で区議会野党の自民が当選した。無所属のうち近藤と立石は区長派だが、小宮山は今回区長選から区長派をやめた。内野と渡辺は野党だった都ファ会派を3月に解散したが、今回区長選で都ファは酒井を応援したので内野と渡辺は区長派になるのだろうか。だとすると野党(自民)が1人増えたけど非区長派無所属が1人減って区長派無所属が1人増えたことになる。

ややこしいな? しかし多少の出入りはあっても、無所属がキャスティングボートを握る与野党拮抗に変わりはない。

稲垣辞職なら立憲応援候補も当選していた

なお、もし稲垣が議員辞職して区議補選の定数が2になっていたら、今回次点だった細野(生活者ネット。立憲応援)が2人目の当選者になっていたことになる。細野は当選したら立憲会派に入るとみられていた。

酒井票大幅増の要因の簡単な考察

前回2018年区長選の簡単な考察は下記ブログ参照。

今回も各得票を簡単に考察する。

酒井票は前回から50%の大幅増

今回区長選は、4年前の中野サンプラザなどに関する選挙公約をめぐり、本人すら当選後のツイッターで「消去法で投票したとの声」「厳しいご意見」を認めるような状況だった。

にもかかわらず、現職酒井の得票は55,318と、2018年の初当選時の36,758票から50%も大幅増加した。

(グラフ中の「与党」「野党」は区政ではなく国政の与党と野党)

増加の一因に勝ち馬乗りと現職ブースト?

熱心に現職を支持して投票した人だって結構いたとは思うが、そういう人はほぼ前回も投票したんではないか。今回の酒井票大幅増の要因とは考えにくい。

得票が大幅に増えた理由のひとつには、4年前の立憲、共産、生活者ネットに加えて、今回は都民ファーストが応援し、さらには通常は自民党の支持基盤であるはずの多くの経済、保守系団体が酒井応援に転じたことがあるのではなかろうか。

そういう「勝ち馬乗り」的な効果のほか、現職というだけで票が入る現職ブーストもかかったと推測される。4年前は単に野党(この場合は国政野党の意味)共闘候補だったのに、勝てば官軍。

まあ逆にいうと、現職はそんなに有利なのに、前回選挙で当時の現職だった田中が新人だった酒井に結構な差で負けたのは、どんだけだよってことになるね?

今回の酒井票は区内野党票よりだいぶ多い

下記ブログに過去7回の中野区議選の各党得票数をまとめている。

それによると、直近の2019年は立憲民主党ブームが続いていた頃で民主党系と共産の候補の得票数を合わせた数が近年になく多かった。つまりそれは多かった時の中野区の(国政)野党票の数と思われるが、36,212票で、この数は前回の酒井票とほぼ同じだから理屈に合っている。今回区長選の酒井票はそれを1万9000票前後も上回った。

ちなみに今回都ファが新たに酒井応援に回ったが、2019年区議選の都ファ票は2人合わせて3,385票に過ぎないため、都ファ応援が主な原因で酒井票が激増したわけではないと思う。

稲垣票は前回の田中+吉田票に及ばず

一方、今回区長選で稲垣は、前回2018年の区長選で落選した田中大輔前中野区長と吉田康一郎(現中野区議)に応援されたが、稲垣の得票34,564は、田中と吉田の得票合計42,335に8000票近く及ばなかった。

それがなぜかというと、まず上で挙げた、酒井票が多かった件で考えられる理由の裏返しということがあるかもしれない。

〈2択「消去法で投票」→酒井票に〉の意味

また稲垣が選挙で、中野区政を「共産党主導」とする事実と異なる主張をしたこと、および田中前区長、吉田、竹村、杉田水脈に応援されたことによるイメージ的な影響は、調査されていないため不明だが、酒井との票差の大きさを考えると、それがマイナスに働いて票が酒井に流れた可能性は否定しきれない。

稲垣本人と応援勢の香ばしさについては、下記チダイズムの記事を課金して読むといいかもしれない。

今回の選挙は、単純に候補が2人しかいなかったため、比較検討の上、少しでもましと思う方に投票した人は多かっただろう。「消去法で投票した」ってのはそういうことだ。

2022/5/17中野区長選公開討論会(ニコニコ生放送)からキャプチャ

無効票は特に多くなかった模様

区長選の投票者数は92,174。酒井、稲垣の得票を合わせた有効投票は計89,882。その差(おそらく白票などの無効票)は2,292。

一方、区議補選の投票者数は92,155。6人の得票を合わせた有効投票は計88,957。その差は3,198。なので区長選で特に無効票が多かったということはないようだ。

自主投票の維新と公明の支持者は稲垣投票が多かった?

今回区長選の酒井(立憲、共産、生活者ネット都ファ応援)の得票55,318は、今回区議補選の生活者ネット候補(立憲が応援)票と都ファ候補票と共産候補票の合計51,151を少し上回るくらいだった。

候補者 得票数(計) 候補者 得票数(計)
区長選 酒井直人 55,318 稲垣淳子 34,564
区議補選 ネ(立)+都+共 51,151 自(公)+維 34,353

一方、区長選の稲垣(自民支部推薦)票34,564は、補選の自民候補(公明が応援)票と維新候補票の合計34,353とだいたい同じだった。

ということは、維新は自主投票だったが、維新色の強い田中前中野区長や、他自治体の維新議員が稲垣を応援していたので、維新支持者は稲垣に投票したのかもしれない。

さらに、ということは、公明党は区長選は自主投票だったものの、同時に行われた区議補選では自民候補を応援していたので、公明支持者は区長選で稲垣(自民支部推薦)に投票した人が多かった可能性がある。

考察のまとめ的なこと

というわけで、今回の区長選は出口調査が行われていないため、裏付けにはもうひとつ乏しい(「簡単な考察」というのはそういう意味)のだが、酒井票の大幅増には「勝ち馬乗り」「現職ブースト」「消去法で投票」などの要素が寄与したのではないかと考察した。

しかし前回選挙では同様に有利だった当時の現職が負けているので、良くない現職は有権者がその気になれば引きずり下ろすことができる、そういう一抹の希望を私は考察しながら感じた。

もしかしたら現職になっちゃえば今更リベラル勢の票なんか要らないのかもしれない。それにもかかわらず圧勝といえる票差で再選された現職が「消去法で投票したとの声」に言及する謙虚さを捨て去ることができないのは、ことによるとそのことを理解しているのかもしれない。

(中野非公式通信)

区長選ポスターと中野区役所。2022/5/20撮影

区長選、区議補選ポスターと中野サンプラザと中野区役所。2022/5/20撮影