中野区立桜山公園工事の死亡事故に関する情報公開文書の黒塗りが剥がれます (行政不服審査請求、2023年2月)

桜山公園事故続報〉

2021年2月、中野区立桜山公園の改修工事でトイレユニットを曳家する際に死亡事故があった。この件で中野区都市基盤部公園緑地課に情報公開請求をしたところ「犯罪捜査に関する情報は非公開」という理由で、ほとんど黒塗りのいわゆる「のり弁」が公開された。
本稿では、のり弁を不服として(行政庁としての)中野区長に審査請求をした結果、黒塗りを剥がすべきだという答申を勝ち取ったので、中間報告をする。2023/2/12記
答申と同内容の裁決が出た。(2023/2/16。末尾に追記)

中野区情報公開・個人情報審査会の答申書(冒頭部分)

背景

桜山公園での曳家死亡事故については下のリンク先の記事に書いた。情報公開された文書はほとんどすべてが黒塗りだったが、曳家の工程について、死亡事故後は「クレーン作業」に変更して施工したので無事に改修が完成したということはなんとか読み取れた。つまり、事故の状況はほとんどが隠蔽されていたが、トイレユニット設置について最初からクレーン作業にしておくべきだったということだけは分かった。

nakanocitizens.hatenablog.jp

この記事を書くのと同じころ(2022年2月)に、中野区長を審査庁兼処分庁として、じゃまな黒塗りを剥がすべく行政不服審査請求をした。

それから約1年、2023年1月31日付で中野区情報公開・個人情報審査会から黒塗りを剥がすべきであるという旨の答申があった。ということは、3月中頃には黒塗りの剥がれた文書が開示されるということだ。

そこで、今日(2/12)までの時系列を説明しておく。

行政不服審査請求の流れ

中野区都市基盤部公園緑地課がした情報公開に不服がある場合の審査請求の流れ

(点線の矢印は必須でない文書のやりとりを表す。「うやむや」の部分は②(庁内での調整)の節の注‡で説明する)

①形式審査

2022年2月22日付で「審査請求書」を中野区総務部総務課宛に配達証明付き一般書留で郵送した。

審査請求書(PDF)

審査請求の理由は次のようにした。

 審査請求人は2022年2月7日付で区政情報一部公開決定通知書(3中都公第909号)の処分を受けた。
 上の処分は、公開することができない文書等の名称又は部分に犯罪捜査に関する情報を挙げ、その決定の根拠を中野区区政情報の公開に関する条例第8条第1項第4号としている。しかしながら、非開示部分である死亡事故の捜査に関する情報は、犯罪の予防等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれのある情報には該当し得ない。なぜなら、死亡事故はすでに発生しており再発を予防すべきは当然で、情報を隠蔽することがむしろ犯罪の予防等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼす行為にあたるからである。
 よって、「犯罪捜査に関する情報の部分を開示せよ」との裁決を求める。

審査請求書が不適法な場合には却下の裁決書が審査請求人に届くが、それ以外の場合は、庁内での調整に入る。

②(庁内での調整)

今回は適法な審査請求書だったので、中野区長の争訟担当(総務課)は、情報公開を担当した部署(公園緑地課)へ連絡をした。すると、公園緑地課が黒塗りの維持を求めたので、中立性の高い中野区情報公開・個人情報保護審査会に諮問するために弁明書を用意させた。

‡ ここで、担当部署が黒塗りの維持を求めない(すなわち、黒塗りを剥がすことに同意する)場合、行政不服審査法的手続きとしては「認容」の裁決をしその裁決書を審査請求人に書留郵便で送ればすむ。しかし、中野区の実務では、従前の黒塗り情報公開決定を取り消す「区政情報公開取消し通知書」と黒塗りのない新しい「区政情報公開決定通知書」を同時に審査請求人に普通郵便で送りつけてくる。この場合には、新しい決定通知書で区民が開示文書を受け取った後、しばらくして、訴えの利益がないという理由の「却下」の裁決書が送りつけられたり、「審査申請取下書」が送り付けられその提出を求められたりする。実に不愉快な、区民をばかにした審査請求の運用、つまり、一区民ごときの下々の請求は死んでも「認容」にはしてやるものかという運用がなされている。

(このような実質的認容の形式的却下/取下がされた例としては、中野区保健所所管の営業許可に関する情報公開に要する超高額手数料についての審査請求中野区立平和の森公園再整備に係る設計図書の情報公開についての審査請求がある。)

また、中野区の条例によると、認容により情報公開決定に反対意見書(④答申の節で後述)があるとなる審査請求については、かりに担当部署が黒塗りの維持を求めないとしても、中野区情報公開・個人情報保護審査会へ諮問せずには認容できない(⑤裁決の節で後述)。この規定はおもに、審査会から「認容」のお墨付きを貰うことで業者からの訴訟リスクを軽減するためにあり、区民のためではない。

弁明書と「中野区情報公開・個人情報保護審査会に諮問する」という通知は、審査請求人に普通郵便で送付された。審査請求人は、弁明書への反論書(あるいは、審議に入ったあとなら意見書)を提出することもできるが、公園緑地課が書いた弁明書に理由が無いと考えたので今回は何も提出していない。また、審査請求人は、口頭での意見陳述を申し出ることもできるが、その必要を感じなかったので今回は申し出ていない。

③審議

情報公開・個人情報保護審査会の審議は、完全に非公開で、対象となっている文書を黒塗りなしで実際に見分するいわゆるインカメラ審理が行われる。

今回、実際にインカメラ審理を行なったことは、答申書の「本件事故に至った経緯や原因に関して、本件工事事業者など、本件工事に関与した法人や従業員等の個人の認識が記載されており」という記載から分かる。なぜなら、事故に至った経緯・原因に関する認識のような内容が情報公開された黒塗り文書からは読み取れないからだ。

中野区情報公開・個人情報保護審査会の答申書「第4 当審査会の判断」より

④答申 ←今ここ

2023年1月31日付けで情報公開・個人情報保護審査会の答申が出た。

答申書の写し(PDF)

第1 審査会の結論
 中野区長が非公開とした部分の内、個人の氏名などの個人情報並びに法人の印影を除き、公開すべきである。
第2 (略)
第3 (略)
第4 当審査会の判断
……(中略)……
 むしろ、本件事故の原因は、当該公園を利用することになる区民の重大な関心事であるとともに、公園等の整備工事に従事する者の安全確保、公園一般の安全に対する区民の信頼性確保の観点から、本件請求情報を公表すべき必要性は高い

(太字と下線は筆者)

下線部では、審査請求人があえて主張していないことまで答申している。インカメラで実物を見分した情報公開・個人情報保護審査会が言う「情報を公表すべき必要性は高い」だから、大変な説得力がある。これはまったくその通りで、本件のような情報は、情報公開請求がなくても区のホームページ、あるいは業者のホームページで自発的に公開すべき情報だとしか思えない。

中野区情報公開・個人情報保護審査会の答申書「第4 当審査会の判断」より

さて、中野区の条例によると、業者(本件では住友林業緑化)の情報を含む開示の決定が出る見込みの場合、その業者に通知することになっており、業者は意見書を提出することができる。そして、意見書で非開示を求められた部分についても開示することにしたならば、開示決定の際に業者にその理由を説明し、決定から情報公開実施までは2週間をあけるということになっている(この場合、業者が提出した意見書は事後的に「反対意見書」と呼ばれる)。

(第三者保護の手続)
第12条の2 ……(中略)……
3 実施機関は、前2項の規定により意見書の提出の機会を与えられた第三者が当該請求情報の公開に反対する意思を表示した意見書(以下「反対意見書」という。)を提出した場合において、公開決定をするときは、公開決定の日と公開を実施する日との間に少なくとも2週間を置かなければならない。この場合において、実施機関は、反対意見書を提出した第三者に対し、公開決定をした旨及びその理由並びに公開を実施する日を文書により通知しなければならない。
—— 中野区区政情報の公開に関する条例(下線は筆者)

2週間という期間の定めは、業者が必要に応じて差止訴訟を提起できるようにするためだ。

今回、いつごろ情報公開が実施されるのかを総務課にメールで照会したところ「裁決のあと決定がでて、それから2週間はかかる」という回答が得られた。つまり、住友林業緑化からは、従前の黒塗り情報公開決定の前に2022年1月17日付で反対意見書の提出があり、これが黒塗りを剥がした新たな情報公開決定についても反対意見書となるということだ。黒塗りを剥がした開示決定で、住友林業緑化が差止訴訟を提起するつもりがあるかどうかは知る由がない。

¶ 従前の決定通知書(2022年2月7日付)には、2月24日から3月3日に来庁すれば公開を実施する旨の記載がある。つまり、決定の17日後から実施開始が予定されていた。実際には、開示請求者が早めに区役所に取りに行き、実施が決定の15日後の2月22日となった。

⑤裁決

ところで、行政不服審査法は、理由を付した上でなら答申と異なる裁決をすることを可能としている。

(裁決の方式)
第五十条 裁決は、次に掲げる事項を記載し、審査庁が記名押印した裁決書によりしなければならない。
一 主文
二 事案の概要
三 審理関係人の主張の要旨
四 理由(第一号の主文が審理員意見書又は行政不服審査会等若しくは審議会等の答申書と異なる内容である場合には、異なることとなった理由を含む。)
——行政不服審査法(下線は筆者)

しかし、中野区区政情報の公開に関する条例は、答申を尊重して裁決をすると定めている。

(審査請求)
第13条 (略)
2 (略)
3 実施機関は、公開決定等又は第1項の公開請求に係る不作為について審査請求があつたときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、中野区情報公開・個人情報保護審査会に諮問し、その意見を尊重して裁決をしなければならない
(1) 審査請求が不適法であり、却下する場合
(2) 裁決で、審査請求の全部を認容し、当該審査請求に係る区政情報の全部を公開することとする場合(当該区政情報の公開について反対意見書が提出されている場合を除く。)
4 (略)
—— 中野区区政情報の公開に関する条例(太字は筆者)

今回は、諮問せずに却下または認容の裁決をする(1)、(2)の場合にあたらないので、条例での「尊重」という用語を素直に解する限り、答申と裁決は同じ内容にしかなり得ない。ちなみに反対意見書の提出は、②の段階においては(2)カッコ書きが中野区情報公開・個人情報保護審査会へ諮問させる効果を定めているが、④から⑤の段階においては既述したように開示決定から実施まで2週間をあけさせる効果しかない。

裁決書は書留郵便で審査請求人に送付されてくるはずだ。(2023年2月16日:裁決書が郵便で届きました。本稿末尾の追記をご覧ください)

⑥開示決定、⑦公開実施

今回の裁決は、従前の(黒塗りの)「区政情報一部公開決定通知書」の法的効力を取り消すことになる。

そして、裁決書のあと、公園緑地課から改めて「区政情報一部公開決定通知書」(個人情報および印影を除き黒塗りなし)が審査請求人に送られてくるはずだ。公開実施開始後、なるべく早く文書を取りに行こうと思う。

予告

というわけで、(住友林業緑化が差止訴訟を起こさない限り)2023年3月中頃には、黒塗りの剥がれた文書が開示される。

† もしも差止訴訟が提起されたならば、審査請求人は利害関係者にあたるので受訴裁判所から「訴訟告知」という通知が送付されてくる。その場合には、当然、審査請求人も訴訟の第3の独立当事者(参加人)として詐害防止参加するということになる。

動きがあり次第このブログで報告するのでしばらくお待ちください。

(く)

2023年2月16日追記: 答申と同内容の裁決が2月14日付けで出た。

主 文

本件処分のうち、中野区区政情報の公開に関する条例第8条第1項第4号(犯罪の予防等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれのある情報)を理由として非公開とされた部分を取り消す。

裁決書(PDF)

主文の理由としては、答申を引用するとしている。

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