旧中野刑務所正門移設の説明会。中野区の文化財行政の管轄が違法状態。説明会と文化財保護審議会に関する情報公開請求(2021年1月)

概要

・2020年12月23日、東京都中野区は現地保存を一旦発表していた旧中野刑務所正門を移設する方針について、住民への説明会で説明し質問に答えた。
文化財行政は法的に教育委員会の管轄で、おまけに平和の森小学校建替計画の説明会を兼ねていたにもかかわらず、主催は首長部局(中野区区民部)だった。中野区の文化財行政は首長部局が事務を行うにとどまらずあたかも決定の権限があるかのような違法な状態が続いている。
・説明会開催に関する情報公開請求。中野区長名で開示。区民部単独で開催の起案をしている。
・中野区が傍聴を拒否している文化財保護審議会議事の情報公開請求。中野区教育委員会名で開示。公開されたのは発言者名が黒塗りの異様な「議事要旨」だった。2021/1/4記

(1月6日注: 12/23の説明会は保護者向けを兼ねていなかったことが分かったため、関係個所を手直しした。失礼いたしました)

 

説明会の予告

2020年11月、東京都中野区は現地保存を一旦発表していた旧中野刑務所正門(中野区新井三丁目)を移設する方針を区議会に報告した。

その際、住民と保護者への説明会を11月中に1回ずつ計2回開き、12月に方針決定して区議会に報告するとしていた。
しかし実際には保護者向け説明会は11月に開かれたようだが、住民向けは12月23日だった。方針決定と議会報告は2021年1月にずれ込むそうだ。

説明会のお知らせは12月上旬ごろ地元の掲示板に貼られた。

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中野区新井三丁目の掲示板に貼られた旧中野刑務所正門説明会お知らせ。2020/12/10撮影

中野区ホームページには説明会の1週間前、12月16日になってお知らせがUPされた。

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学区限定! なのに教委の主催じゃない?

ホームページにも掲載された説明会ポスター。

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説明会の名前は「旧中野刑務所正門の取り扱い方針(案)および平和の森小学校の整備スケジュールに関する説明会」。

新型コロナウイルス感染症対策を理由に、なんと参加者は「平和の森小学校通学区域内にお住まいの方限定」。学区限定50人、要事前申し込み、席に空きがある場合学区外の区民も参加できる、という。

中野区が文化財指定を目指すとしていた建築物の現地保存をやめたという説明会に参加できるのが、平和の森小学校の学区住民限定! にもかかわらず中野区教育委員会ではなく「中野区区民部文化国際課文化財係」が連絡先として記載されている。何だそれは。どこから突っ込めばいいのか。

(12月23日の説明会は参加が「学区限定」とされたため、私は保護者向けを兼ねていると誤解していたが、事情を知る人から、保護者向けは11月に開かれ保護者の参加はわずか8人、教育長は参加したが挨拶しただけだった、と教えていただいた。しかし12月23日の説明会が保護者向け兼でないのならなおさら、なぜ「学区限定」にしたのだろうか。)

 

説明会

説明会は2020年12月23日19時半から約2時間、旧中野刑務所正門に近い新井区民活動センターで開かれた。

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新井区民活動センター(中野区新井)で開かれた旧中野刑務所正門説明会の案内板。2020/12/23撮影。説明会は撮影禁止

区側説明者は左(下手)から矢澤区民部文化国際交流担当課長、青山区民部長、酒井区長、入野教育長、戸辺子ども教育部長、塚本子ども教育部子ども教育施設課長の6人が並んだ。

区民部の開催としておきながら、子ども教育部幹部と、入野教育長や酒井区長までいるのを見て私はびっくりしたのだが、後で見たらお知らせとポスターに「中野区長、教育長も同席」と書かれていた。よく読んでいなかった。

50人限定とされていた参加者は、実際には申し込みが少なく学区外からも参加でき、それでも計20人強だった。最近は、区長出席の区民向けタウンミーティングでも参加者は10数人とかのことが多い。なのに中野区、なぜ説明会の参加者を絞ろうとしたのか。

20人強の中に共産浦野さとみ、小杉一男、無所属むとう有子の少なくとも3区議がいた。こういう場で区議は発言しないのが中野区の慣例らしく、区議に関しては傍聴のような感じなのかもしれない。(その後、他の参加者から聞いたところでは無所属いながき区議も来ていたらしい。)

曳家を選択する根拠は? 文化財指定はいつ?

中野区の説明は、平和の森小学校移転先の法務省矯正研修所跡地内で旧中野刑務所を曳家により100メートル西に移設するという、11月に区議会に報告したのと同様の内容で、詳細はこの時の区議会報告に関する前掲記事↓参照。

参加者の中には複数の建築家や大学関係者がいた。思想犯収監の歴史を記憶する「場所の力」に言及し移設を疑問視する声や、曳家を選択した理由が納得に足るものではないとの指摘が相次いだ。区文化財指定を(いつ)するか複数の区民が尋ねたが、青山部長は「まだ区の持ち物ではない」と頑として答えなかった。

矢澤課長によると、旧中野刑務所正門の取り扱い方針(現状は「案」)はこの説明会や議会の意見を受け2021年1月に決定し議会に報告する。

塚本課長によると、法務省矯正研修所跡地は平和の森小学校移設先として1月下旬ごろ売買契約する。 

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平和の森小学校移転用地及び道路用地の買入れについて

また塚本課長によると、土地は現状のまま国から区に移管し矯正研修所の建物撤去と整地は区で行う。

(整地せずに土地113億円もするのか。売却前に国が地下埋設物調査↓してたのは、国が埋設物撤去して更地で下げ渡すためではないわけか。それなら撤去費用が売却価格から割引かれてる筈)

中野区の文化財行政の法的責任者である筈の入野教育長は質問には答えず最初と最後に発言し、平和の森小学校の建て替え遅れを謝罪した。

酒井区長は最後に、メールや問い合わせには全て答える、今回の説明会は議事録概要を後日公開する、と約束した。

中野区の文化財行政の管轄が違法状態

参加した区民の中に、中野刑務所とその跡地の経緯を誰よりもよく知る小澤哲雄元区議(注*)がいた。小澤氏はまず中野区の文化財保護条例では今でも教育委員会文化財指定をするのか確認した後、文化財指定をいつするのか、門を学校の一部として活用できないか、などと尋ね、子どもたちの意見を聞くことを求めた。

文化財保護法及び地教行法によると、文化財指定はもちろん、文化財保護に関する事務など文化財行政全般の管轄が教育委員会のはずだ。とりわけ、「文化財保護審議会の適正な処理を図るため、必要な援助を行う事務」(地教行法第48条第1項)は国の第1号法定受託事務(地教行法第63条、地自法別表第1)であり教育委員会の管轄だ。文化財に関するその他の雑多な事務に関しても、それを首長部局が行うことを禁止する明文規定が地教行法23条に2019年まで存在した(後述)。これらの規定は、首長部局が経済とか効率とかそういう短期的な欲に目が眩んで、貴重な文化財を破壊してしまうという取り返しのつかない国家的損失を避けるためのものだ。

中野区教育委員会の事務は教育委員会事務局(=中野区子ども教育部)が地方自治法第180条の7の補助執行の条項を根拠に担当している。ところが文化財については教育委員会事務局ではなく区民部文化国際課文化財係が直接に事務を行っている。事務を行いたいのなら、2019年の地教行法改正で23条(職務権限の特例)1項に「文化財の保護に関すること」が追加されたので、条例を定めさえすれば法律の特例として適法になる。しかし、中野区の場合は条例を定めておらず、明白な違法状態である(地方自治法第180条の7は一般法の規定なので、特別法の地教行法の規定の方が優先し、仮に補助執行だとしても違法)。例えば今回のように文化財関係の説明会を、教育委員会ではなく区民部の文化財係が主催するのは違法であり、その内容は法的に無効とされる。

つまり、説明会は権限がない人がそれっぽいお喋りをして時間を潰したのと変わらない。

また、文化財保護審議会(教育委員会の下部機関)の傍聴に関するポリシーを教育委員会に問い合わせると、教育委員会事務局が答えず区民部の文化財係に回される。おかしい。この件の経緯は下記↓参照。

*小澤哲雄元区議は、刑務所跡地をみどりの防災公園(現平和の森公園)にする運動が盛んだった当時、現役の区議会議員として大いに活躍したのみならず、『獄中の昭和史』豊多摩(中野)刑務所を社会運動史的に記録する会編, 青木書店 1986. ISBN4-250-86008-6 の編纂にあたり中心的な役割を務めた。

 

説明会開催に関する情報公開請求

この説明会を誰がどのように決めて周知したのか、区民が中野区に情報公開請求した。2020年12月下旬に公開された(中野区長による開示決定)。

説明会開催は区民部だけで起案

説明会実施の起案文書に区民部の矢澤課長と担当係長の2人の名前しかなく、区民部だけで起案したことが分かる。新井区民活動センターの使用料免除も担当係長が申請している。区政情報一部公開決定通知書によると、説明会の案内文の住民へのポスティングは行われていない。周知したくなかったのだろうか。

また、説明会実施の周知方法として、関係者へは「口頭連絡等」と書いてある。区長や教育長の出席要請も口頭ですか。記録を極力文書の形で残さない決意でも固めているのか。

 

文化財保護審議会議事概要の情報公開請求

前掲記事↓に書いた通り、中野区は文化財保護審議会の傍聴を拒否(注**)している。

**審議会非公開に対する行政不服審査請求の続報はしばしお待ちを。

中野区文化財保護審議会はホームページで議事録の公開もしていない。信じられない閉鎖性。概要なら見ることができるというので、区民が情報公開請求した。こちらは2020年10月に公開された(中野区教育委員会による開示決定)。

黒塗りの発言者名

酒井区長は2019年に一旦発表した旧中野刑務所の現地保存を事実上撤回、中野区教育委員会に意見を求めた。教委は文化財保護審議会に門の文化財的価値と保存・公開について諮問、審議会は2回の審議の後、2020年7月30日に答申した。

今回公開されたのは、6月30日(場所は新井区民活動センター)と7月28日(場所は中野区立歴史民俗資料館)に開かれた、この2回の審議の「議事要旨」である。発言者の名前が黒塗りで異様だ。それにいずれも1時間半の議事に対しそれぞれA4用紙2枚しかなく、要旨にしても分量が少ない。

答申から方針が大きく転換したら審議会招集されるらしい

6月30日の審議では答申案の表現などについて話したのち、門を視察している。7月28日は答申案の正確さや今後の手続きを含めもう少し詳細なやり取りがあった模様だ。唯一の建築専門家である内田青蔵神奈川大学教授(建築史)は6月30日は欠席、7月28日は出席した。詳細なやり取りは内田氏かもしれない

この7月28日の審議で答申に参考文献(『中野のまちと刑務所』中野区企画部, 1984. と『旧中野刑務所正門学術調査報告書』中野区区民部文化・国際交流課, 2019. (注***))を明記することが決まった。

***いずれの資料も中野区立図書館デジタルアーカイブで公開されている。下記参照。

門を移設した場合に元の場所に「旧位置に何らかの表示をすることが必要」との文言もこの時に答申に入った。

また「答申の後、議会報告の前から議論を開始し、その結果、方針が大きく転換した場合」は文化財保護審議会の「各委員に説明をし」、「必要に応じて文化財保護審議会を開催する」との言質を事務局(中野区区民部)から取っている。 

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現時点の移設案は、門の周りに面積が取れてないとか理由があきらかでないとか、すでに答申から方針が大きくかけはなれて転換しているが、文化財保護審議会にはもう一回意見を聞いたのだろうか。

 

この審議の結果提出された答申については下記参照。


なお、この説明会の前日、2020/12/22にNHK首都圏ネットワークで旧中野刑務所正門の件が放送された。内容は12/30ウェブにUPされた。↓

 

(中野非公式通信) & (く)

 

旧中野刑務所正門と文化財保護審議会についての記事やまとめ。

 

 

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