2025年夏ごろ旧中野刑務所正門(旧豊多摩監獄表門)を曳家により移動\曳家の様子が一般公開される見通し/(2024年12月中野区文化財保護審議会傍聴)(2025年3月審議会追記)

大正時代の煉瓦造建築物「旧中野刑務所正門」(東京都中野区新井)を約100メートル西に移築するための曳家の時期が2025年夏ごろと明らかにされ、その様子が一般公開される見通しとなった。2024/12/24中野区文化財保護審議会で区担当者が明らかにした。

一方、工事の進捗を優先するため煉瓦積みの基礎部分を破壊したことも報告された。2024/12/27記

追記: 2025/3/25審議会を追記した。

2024/12/24審議会議題

2024年12月24日午前、中野区文化財保護審議会が中野区役所で開かれた。次の4件の報告があり、今回の会議も前回に続き全て公開(傍聴可)だった。

哲学堂公園の整備について
◯旧中野刑務所正門の進捗状況について
◯区内文化財の取り扱いについて
◯区内の国登録有形文化財について

次回は2025年3月開催予定。

中野区文化財保護審議会ウェブサイトより

資料と議事要旨

(2025/1/30追記)

この日の資料と議事要旨は1月29日更新の審議会ウェブサイトで公開された(下のリンクは4/17「表示できません」となった。新たなリンクは下の方に貼ってある)。

資料
議事要旨

(4/22追記)

上に貼った「資料」と「議事要旨」のリンクは、4/17更新の審議会ウェブサイトで「お探しのページは表示できません」となった。代わりに「議事要旨・当日資料」が公開された。

議事要旨・当日資料

(追記ここまで)

旧中野刑務所正門

夏ごろ曳家公開へ

旧中野刑務所正門(東京都中野区新井、2021/11/5撮影)

旧中野刑務所正門(中野区文化財: 旧豊多摩監獄表門)は、後藤慶二設計で1915年建築。現在建っている場所に中野区が区立平和の森小学校を移転する計画のため、「曳家」により西に約100メートル移されることになっている。移動先で一般公開される予定(参考: 中野区ウェブサイト「旧中野刑務所正門について」)。

曳家の時期についてこの日、区担当者が「2025年夏ごろ」と明らかにした。

ひきや【曳家・引家】
建築物を解体せずにそのまま水平移動させて、他の場所に移すこと。曳舞。
大辞林 第三版

内田青蔵委員が、曳家工事中の一般公開をぜひ行うようにと促した。工事はすでに遅れているから見せていたら遅れるという言い訳はできないはずだとした上で、公開すべき理由として、区民の税金を使うこと、煉瓦造建造物の曳家はあまり事例がないこと、建物の存在価値を示すためにも市民に公開してみせるべき、市民に伝えるのは義務である、と発言した。小学生にも見てほしい、文化財を残すのは金がかかるが意味のあることと伝えたい、と。山崎祐子委員からも、青森や大磯で、地域の人に見せたり曳家に参加してもらったりした事例への言及があった。

冨士縄区民部文化振興・多文化共生推進課長は「公開を検討している」と答えた。内田委員は審議会で何度も同様の発言をしていたが、区側は今回初めて前向きな回答をした。

「あり得ない」基礎部分の破壊

正門「レンガ基礎の形状」が思ってたのと違っていたため曳家準備の工事が一時中断したことが、区議会区民委員会(2024/8/28)と区教育委員会定例会(2024/8/30)に報告されていた。そのさい区議、教育委員とも、小学校の移転が遅れることを心配する意見しか出なかった。

前回の文化財保護審議会は上記区議会委員会6日前の2024/8/22に開かれたが、この件は報告されなかった。この日(2024/12/24)初めて報告された。それによると、基礎部分の煉瓦の「根積み」が3段だと思って工事を設計しちゃったところ、掘削してみたら4段あったらしい。

ねづみ【根積み】
煉瓦積み、または石積みで、基礎となる部分。上部の重さを分散するために下方をしだいに広げた形にする。
大辞林 第三版

2024/10/7に区議会区民委に8月より詳しい報告がされている。今回文化財保護審議会に報告された内容の一部と思われるため、以下その資料を引用する。

設計の再検証及び安全性の確認については、文化財保存の観点のほか平和の森小学校新校舎整備工事への影響も考慮し行った。
現存する煉瓦基礎を生かし設計の変更を行うと、構造計算や建築基準法に関する手続き等を再度行うなど、工期を大幅に延伸する必要があった。
一方、再検証の結果、正門の煉瓦基礎の一部を撤去しても、建築物の耐力が減少しないことを確認した。また、安全性を確保しながら施工することが可能となるよう工事施工者を交えて検討した。
煉瓦基礎の一部撤去は、正門の現状変更には当たるものの、上述のとおり文化財保存の観点、工期延伸、安全性の確保等を総合的に判断し、設計書に合わせ撤去するという判断を行った。
- 2024/10/7中野区議会区民委員会資料「旧中野刑務所正門の進捗状況について」より

2024/10/7中野区議会区民委員会資料「旧中野刑務所正門の進捗状況について」より

中野区が煉瓦基礎を一部撤去したことについて、内田委員は文化財として基本的にこういうことをするのはあり得ない」と釘を刺し、その上で、今回は小学校を作るため工期の後ろが決まっているという区側の事情に言及した。大石学会長も、審議会としては、いろいろな撤去等をすることについて工事の遅れを理由にしないでもらいたい、と言った。内田委員が、撤去したものは「当然」ぜんぶ保存しておくんですよね? と尋ねたが、区担当者によると「少しずつ削って取り外した」ということで、刻印煉瓦など保存するため取っておいたものを除き、その口ぶりだとどうも既に破壊してしまったように思われる。わぁ。

大石会長が曳家のレールをいつ敷くのかと尋ねたところ、年度始めごろからという答えで、審議会でまた現地を視察するという。

正門についてのやり取りの中で、区職員から、教育長が変わって、文化財に理解がある、との発言があった。前任者との比較の問題かもしれないが、とりあえずそれは良かったと思う。

その他

哲学堂公園「再整備」区役所内の力関係に懸念

中野区立哲学堂公園(中野区松が丘。1904年に井上円了が創設)が2020年に国の名勝(文化財の一種)に指定されたことを受け、中野区は同公園の「再整備計画」を作り直し、それに基づき今後工事が予定されている(参考: 中野区ウェブサイト「哲学堂公園」)。

区はこの日の会議で、劣化が進む「常識門」修復の設計を進めていることと、公園内の斜面地の石積みにやはり修復の必要があることを確認したと報告した。常識門には冠木(門の上の横木)があったのかなかったのかすらわからないらしい。劣化が激しい門扉や聯を更新した場合、オリジナルを展示するスペースが再整備後も予定されていないので、上高田運動公園の倉庫で保管するらしい。

委員らは、区役所の公園課やスポーツ振興課が主導する再整備で、文化財担当の意見がどこまで認められるか、例えば安全のため石垣撤去などということにならないか、と懸念を口にした。区担当者は、各部署密に連絡を取っており、都庁や文化庁も入っているとして委員らを安心させようと試みた。

中野サンプラザ遅れ「数年で済めばいいですがね」

未登録を含む広義の文化財について、区で引き取って保存したり、記録保存したりした例が報告された。その中で、中野駅北口再開発で破壊が予定されている矢橋六郎のモザイク壁画と、それから中野サンプラザの記録保存が、広義の文化財の範疇で文化財保護審議会に報告されたのが興味深かった。

大石会長が、中野サンプラザの再開発が止まっている状況は国立劇場と同じだがどうなっているのか尋ね、高村文化・産業振興担当部長は、工事が数年遅れる見通しと答えた。大石会長は「数年で済めばいいですがね」と悲観的だった。

区内の国登録文化財たった4件に

江戸時代からあった民家、細井家住宅が開発のため姿を消した結果、中野区内の国登録文化財は4件になったと報告があった。細井家から寄贈の資料を含め、中野区立歴史民俗資料館で「上高田の農家の暮らし」として展示されている(12/24-2/9)。その一環として文化財保護審議会の委員を務める山崎祐子氏の講演会「上高田の農家で祀られた神と季節の行事」も行われる(1/25。事前申込み制)とアナウンスがあった。

ざっくりした感想

ことし中野区は、ここ20年ばかりの文化財行政とは打って変わり、未登録を含む文化財の保護に力を入れる方針に転換したようだ。学芸員は1人雇いたいとのことだが、予算が手厚くなったわけではないから、寄付やクラウドファンディングで賄うことを考えているようだ。区議会で自民党などが文句を言っているけど、文化財行政はがんばってほしいと傍聴してて思った。

とはいえ、区役所や区議会の大部分であろう再開発したくてたまらない人たちにとって、文化財は邪魔でしかない(もしかして観光による大儲けやにぎわい(笑)がもたらされるなら話は別かもしれないが)。区教委だって公立小中学校の教育が圧倒的関心事だ。

それらの部署と文化財行政の力関係によって、今回工事の進捗が優先され「考えられない」文化財の現状変更が行われたわけで、文化財担当課長も教育長も前任者より文化財に理解の深い人になったし哲学堂公園も計画を作り直したとはいえ、この先もとても心配だ。

追記: 2025/3/25審議会

次のような報告があった。

(1)2024年度哲学堂公園現状変更と、2025年度の変更予定(常識門の修復工事など)について。

(2)埋蔵文化財の発掘調査などについて。2025年度の東京都遺跡調査・研究発表会は中野区で開催される。詳細決まれば報告する。

(3)旧中野刑務所正門について。曳家を前に正門の補強工事を行っている。2025年夏ごろ公開見学会を実施する。

(4)区内文化財の取扱いについて。委員の意見を取り入れて、無形文化財についての記述を含める修正をした。山崎家書院・茶室は2026年度ごろ文化財指定を目指す方向。

(5)山崎家ひな人形の修復を進めている。埼玉県の古文化財保存修復研究所に依頼。

委員からそれぞれの報告について意見や助言があった。この日の審議会は区役所1階ではなく7階の会議室で行われた。大石会長と渡辺委員はリモート参加だった。

(2025/4/22追記)

3/25審議会議事要旨と資料は4/17更新の審議会ウェブサイトで公表された。

(追記ここまで)

(中野非公式通信) & (く)