中野区教委が旧中野刑務所正門を「旧豊多摩監獄表門」として区文化財指定。審議会傍聴申込は無視されました(2021年6月)

2021年6月4日、東京都中野区教育委員会は旧中野刑務所正門を「旧豊多摩監獄表門」として区の文化財に指定した。中野区文化財保護審議会の答申を受けて決定した。

私たちは同審議会の傍聴を申し込んだが中野区は無視した。2021/6/5記

区は6月8日に門の文化財指定を区議会に報告、同日、区ホームページで公表するとともに、6月4日の教委定例会資料もHPに掲載した。それを受けこの記事中の議案や文化財保護審議会答申などの文言を手直しした。6/8追記

区は曳家や保存の基本計画を建文に発注。建文は中野区が曳家可能の唯一の根拠とする報告書を作成している。お手盛りではないのか。7/19追記

文化財指定

中野区教育委員会は2021年6月4日の定例会で、旧中野刑務所正門(東京都中野区新井)を区指定文化財に指定することを「異議なし」で決定した。

f:id:nakanocitizens:20210605025234j:image

スピード決定

教委が中野区文化財保護審議会に諮問を決定したのは4月30日。この時のことは下記記事参照。

諮問決定のあと文化財保護審議会が開かれて答申、それを受け教委が文化財指定決定。この間わずか1カ月強という、何というか中野区の決定にしてはあまり見たことのないスピード感。

「旧豊多摩監獄表門」

中野区は相変わらず区長部局が実質的に文化財行政を司っており、区民部の矢澤岳・区民部文化国際交流担当課長が6月4日の定例会で教育委員会文化財指定の議案を提案し、教委下部機関のはずの文化財保護審議会答申まで、同課長が報告した。

答申は文化財の名称を、後藤慶二の設計した創建期の名称を尊重し、「旧豊多摩監獄表門」とするとの付帯意見を付けた。

"わが国煉瓦建築の到達点"

文化財指定の理由については、議案の補足資料に次のように記されている。

大正期を代表する建築家後藤慶二の現存する唯一の作品である。

また、明治期の西欧の模倣から脱却し、近代の新たな建築様式を模索し始めた明治末から大正期の建造物であり、わが国の煉瓦造建築の技術的・意匠的到達点を示すものとして極めて重要である。

関東大震災第二次世界大戦の戦災をくぐりぬけ残されていることも、地域の遺産として貴重である。

"歴史遺産として有効活用"

議案説明のあと矢澤課長は、門を「中野区指定有形文化財候補とする」との文化財保護審議会の2021年5月24日付の答申を報告した。

答申は「指定すべき事由」を次のように挙げている。

大正期を代表する建築家後藤慶二の現存する唯一の作品である。

西洋建築からモダニズム建築・現代建築へという日本近代建築史の流れの中で、西洋建築の模倣からの脱却を図り、新たな表現形式の模索がはじめられた時期の数少ない遺構であり、建築史学などにおける学術的価値が高い。
中野区の近代の歴史遺産としての希少価値も評価され、指定有形文化財として後世に残し伝えていくことが必要な文化財と判断される。
また、わが国の近代におけるアイデンティティの発達を示す歴史遺産として「哲学堂公園」とともに有効活用が期待されるものである。 

"曳家に際し真正性の重視を" "専門業者を"

また答申は文化財指定について付帯意見を付けた。名称を「旧豊多摩監獄表門」とすることに加え、中野区が門を曳家により移築することを決めたことについての、次の要請である。

今後の保存活用について

今回、中野区により、正門の保存及び公開、そして平和の森小学校新校舎における良好な教育環境の確保との両立を図るため、現地保存ではなく、曳家保存する決定がなされた。

中野区文化財保護審議会としては、曳家により、当該建造物の文化財的価値が著しく低下することはないという判断に至ったことから、中野区有形文化財(建造物)として指定するに値するという答申をするものである。

ただし、今後行われる曳家保存に係る基本計画・保存活用計画等の策定に際しては、真正性を重視し、建築史等専門の学識者の意見を採り入れるとともに、基本計画・保存活用計画・基本設計・実施設計・施工に際しては、文化財建造物の専門業者に委ねる必要がある。

(これはあれかね、区内の顔なじみの造園業者とかに発注しないようにという警告かね。)

教育委員の関心は学校への影響に集中

続いて質疑があった。委員たちの質問と要望は、門の立地する土地に移転予定の平和の森小学校の新校舎建築と教育環境に、門の文化財指定がどう影響するかにほぼ終始した。(これまでお伝えしてきたように、中野区がいったん決めた門の現地保存を撤回して曳家による移設を決めたのは、学校のレイアウトが難しくなるというのが理由である。)

春に一部委員の入れ替えがあったものの、中野区教育委員会は相変わらず、文化財保護が教育委員会の管轄という自覚に乏しいようだ。この日の定例会は、まるで文化財を残したい区側と、残さなきゃいけないなら仕方ないけど学校に迷惑はかけないでね、と釘を刺す教育委員会、みたいな冗談かと思われるようなやり取りが展開されて味わい深かった。

文化財は世間一般の関心も高いのに、「人格が高潔で、教育、学術及び文化に関し識見を有する」教育委員会委員が5人もいて、誰も文化財に関心がないのはある意味すごいと、春の委員一部入れ替え前から思っていた。入れ替え後も状況は変わっていないようだ。(文化財を含む文化一般に高い識見を有する区民が自薦していたが、酒井区長はその人を選ばなかった。)

あと、中野区教育委員、質問したことに区側が答えてなくても、質問に対して何かしら区側発言が貰えればそれでいいんだろうか。答えるまで問い詰めるのは下品とか、そういう感じなんだろうか。不思議。

傍聴申し込みは完全に無視された

教委が諮問決定してすぐ私たちが文化財保護審議会の傍聴を申し込んだ件は、下記記事(前掲)に書いた。

諮問決定は2021年4月30日、傍聴申し込みは5月2日、文化財保護審議会の答申は5月24日だった。教委の文化財指定は6月4日。

中野区は申し込みを完全に無視した。審議会の日時を教えてほしいというのと、傍聴不可の場合その旨連絡してほしいという要請も伝えていたのに、それすら連絡がなく、全くのなしの礫だった。

傍聴できなければ、矢澤課長の審議会に関する教委や区議会での報告は検証のしようがない。文化財保護審議会に関しては区ホームページ上にほとんど何ひとつ情報がない。議事要旨(議事録ではない)は、下記記事で述べたように情報公開請求しなければ読めないし、あまりにも短すぎる。

中野区の文化財行政の閉鎖性は異常だと思う。

追記: 6/8区議会報告、公表、HP掲載

区議会報告まで資料貰えず

答申を含む、門の文化財指定に関する資料は、6月4日の時点での教委事務局(区職員)の説明によると、区議会にまだ報告されてないため傍聴人にコピーを渡すことはできないという。中野区教委は定例会や臨時会での議事の項目をその日のうちか数日以内にホームページに掲載することが多いが、区議会への報告前の資料は教委ホームページには載せず、傍聴人にコピーも渡さない、という慣習がある。

従ってこの記事は当初、発言やプロジェクターで投射された資料をメモしたものを元に書いた。

6月8日に区が門の文化財指定を区議会に報告、区ホームページで公表、教委資料もHPに掲載。これら一連の文書が公表されたため、この記事中の記載を正確な文言に差し替えた。

区議会報告。「区所有でないと指定できない」という嘘にツッコミ

2021年6月8日、中野区は区議会区民委員会で門の文化財指定を報告した。報告者はここでも矢澤課長。

自らの任務を学校教育のみと捉えているかのような教育委員会に比べれば、議会ではまだ少しは文化財に関わるやり取りがされた。

中でも無所属小宮山たかし議員は、区文化財には地蔵や力石のようなものも指定され、ハードルはそれほど高くないのに、貴重なものがどうしてこれまで指定されなかったか質問。矢澤課長は「今まで国の所有だったが今回区のものになったので」と、従来の雑な答弁を繰り返した。それに対し小宮山議員は、中村家住宅洋館(中野一丁目、国登録有形文化財)のように個人所有の文化財もあるでしょ、と多くの区民が持っていた疑問を代弁してくれ、所有にかかわらず「貴重でふさわしいものは指定すべき」と指摘した。

HPで公表

区議会報告が済んだので、同日のうちに区ホームページで文化財指定が公表された。指定の日は教委の議決と同じ6月4日。

旧中野刑務所正門は区文化財に指定されました | 中野区公式ホームページ

f:id:nakanocitizens:20210609093655j:image

中野区文化財登録指定の是非について(答申)

文化財リスト更新

文化財のページのリストも6月8日更新された。

中野区登録文化財・指定文化財一覧

f:id:nakanocitizens:20210609093406j:image

令和3年度 中野区指定文化財 旧豊多摩監獄表門(中野区登録文化財:登録指定第 122 号)

f:id:nakanocitizens:20210608235424p:plain

教委資料HP掲載

また同じ6月8日、文化財指定を議決した6月4日の教委定例会の議案と資料もホームページに掲載された。会議録公開は2カ月くらいかかる。

第32号議案 中野区指定文化財の指定について 補足資料

f:id:nakanocitizens:20210609102652j:image

基本計画を建文に発注

中野区は4月8日、旧中野刑務所正門基本計画・保存活用計画策定業務委託を随意契約で株式会社建文(中野区中央)に発注した。契約価格2902万円9000円。

f:id:nakanocitizens:20210719144039j:image

2019年に建文が作成した『旧中野刑務所正門学術調査報告書』(下記参照) は、中野区が正門の「曳家(移築)」が技術的に可能とする唯一の根拠である。同じ会社に基本計画を作らせるのはどうなのか。お手盛りではないのか。

中野区文化財保護審議会は5月24日に門の文化財指定を答申した際、付帯意見として「今後行われる曳家保存に係る基本計画・保存活用計画等の策定に際しては、真正性を重視し、建築史等専門の学識者の意見を採り入れるとともに、基本計画・保存活用計画・基本設計・実施設計・施工に際しては、文化財建造物の専門業者に委ねる必要がある」としている。

ところがこの時とっくに中野区は基本計画策定を建文に発注したあとだったというわけだ。いつものことながらとんだ茶番である。

 

(中野非公式通信)

 

旧中野刑務所正門の記事やまとめは下記参照。

 

f:id:nakanocitizens:20210605073242j:plain

旧中野刑務所正門。2021/5/23(く)撮影

 

【PR】