酒井中野区長が教育長を再任、「民間人登用」公約守れず。教育委員は推薦登録名簿から16年ぶり選任。医師会枠は維持(2021年3月)

概要

2021年3月23日、東京都中野区の酒井直人区長は、教育畑の入野貴美子教育長を再任した。「民間人を登用」の選挙公約は守れなかった。一方、新教育委員の1人を、有名無実化していた教育委員推薦登録名簿から16年ぶりに選任した。もう1人の新教育委員は2001年以来続く中野区医師会枠が維持された。

中野区議会は3人の人事に同意したが、教育長再任同意の議決は無所属議員1人が反対討論し、別の無所属議員1人が退席する異例の事態となった。2021/3/24記

これまでの経緯

入野教育長選任の事情

2018年6月の中野区長選で田中大輔前区長が落選。懐刀として8年以上権勢を振るった田辺裕子前教育長は、初当選した酒井区長の就任前日に3年間の任期を2年10カ月残して辞任した。
酒井区長は、教育長に「民間人を登用」すると公約していたが、区議会野党の自民党公明党の反対により教育長人事を提出することができず、教育長空席が半年以上続いたあと、教育畑の入野氏を選任した。
記者会見で、教育長の任期は3年、自分の4年の任期中にもう1度ある、と話し、次回は民間人を選任するとの意向を示していた。入野教育長は2019年1月就任、1期目は田辺前教育長の残りの任期の2021年3月31日まで。この経緯は下記の記事とまとめ参照。

教委3人が任期終了

中野区教育委員会は、2021年3-4月に教育長と、4人の委員のうち2人が任期終了する。

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そのため中野区は、区議会第1回定例会(2021年2月15日-3月23日)に3人の同意人事の議案を提出すると予告していた。詳細は下記記事参照。

今回の教育委員会人事

入野教育長再任

中野区議会第1回定例会最終日の2021年3月23日午前、議会運営委員会で、同日午後の本会議で区が提出する議案として、入野教育長再任と新教育委員2人の計3件の同意人事が伝えられた。

異例の反対討論

議運で議会事務局から、本会議で無所属の小宮山たかし議員が入野教育長の人事に反対討論するとの通告があった。議運委員長の伊藤正信議員(自民党)は「これ(教育長や教育委員の同意人事)は通常は討論なしなんですが、えーと、やるんでしたっけ?」と非常に戸惑った様子を見せた。

本会議で小宮山議員は「充分に検討する時間があったのに、いつの間に再任を決めたのか。区長の公約を支持した区民へ理由を説明すべきだ」「重要案件ほど協議を非公開にする。これでは4分の1の会議を非公開にした前教育長と変わらない」などと反対討論した。

「重要案件ほど協議を非公開」については、教育委員会定例会や臨時会における入野教育長の審議非公開乱発に関する下記記事参照。

採決は1人退席、賛成多数で可決

無所属のむとう有子議員は、小宮山議員の反対討論に拍手したあと、採決を前に退席した。入野教育長の人事は、反対1、棄権1の賛成多数で同意された。

再任された入野教育長は1953年生まれ、東京都北区在住。中野区教育委員会指導室長や江東区立小学校長などを務めた。

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2020/11/28中野区立令和小学校開校式で挨拶する入野教育長(中野区HPをキャプチャ)

教育委員推薦登録者選任が復活

教育委員2人の後任の人事についても本会議で同意された。

任期が3月27日までの元中野区指導室長小林福太郎氏の後任は岡本淳之氏。1975年生まれの中野区民で、中野区の教育委員推薦登録名簿からの選任。この制度により教育委員が選ばれたのは2005年以来。なお今回の名簿の14人は全て他薦ではなく自薦だった。

岡本氏のプロフィール(自己PR)。↓
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/152000/d029810_d/fil/05.pdf

2020年12月の意見発表概要。↓
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/152000/d030161_d/fil/05.pdf

プロフィールによると「学校管理職向け月刊誌の編集に長く従事」し、区立江原小学校PTA会長を務めた。中野区教育委員は公務員出身者がほぼ定席化していたが、新体制の教育委員会の5人の中では、公務員出身は入野教育長1人だけになる。

形骸化していた推薦登録制度

中野区教育委員の推薦登録制度は、1995年に廃止された教育委員準公選制の代わりに区民の「新たな参加のしくみ」として導入され、初回こそ3人の教育委員が選ばれたが、その後は2人、2005年に1人となり、その後は全く選ばれず制度が有名無実化していた。今回は16年ぶりの選任。してみるとどうやらこれも田中前区長が形骸化させたんだな。準公選制と推薦登録制度の経緯は上掲の下記記事参照。

医師会枠は維持

任期が4月10日までの医師の渡邉仁氏の後任は、同じく医師の村杉寛子氏。1959年生まれの中野区民。中野区の教育委員会は2001年以来、中野区医師会からの1人が定席となっており、今回も維持された。

むとう議員は村杉氏の人事の同意の際も退席した。その後ブログ「いつの間にか医師会枠が公然化しているのは疑問」と書いた。

村杉氏は、病院ホームページでの自己紹介↓によると、小児一般やアレルギーを担当している。村杉氏の就任により、中野区の教育長と教育委員計5人のうち3人が女性になる。

医師会枠は自民党枠?

中野区議会自民党は、教育委員の医師会枠を自民党枠と認識しているふしがある。大内しんご議員は2010年に区議会で「当該教育委員会にもうちの自民党議員がいる」とのパワーワードを放った。↓

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教委は政治的中立

教育委員会は政治的中立が定められている。

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中野区HP

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文科省HP「新たに教育長・教育委員になられた皆様へ」
教科書採択での奇妙な光景

2020年の教科書採択で印象的な場面があった。
2020年8月7日、中野区教育委員会は定例会で2021年度からの区立中学校教科書を採択した。中野区議会自民党は普段は全く教育委員会の傍聴に来ないのに、この日は区議団9人のうち8人が連れ立って傍聴にくる熱心さだった。医師の渡邉委員は歴史教科書に関し「育鵬社のことについても、私としては重点的に見させていただきました。かなりいい内容になっておりました」「よくできていた育鵬社ですけれども、デジタルコンテンツが一つもないというものは、どうしても選択しがたいという、非常に難しい状況でした」「私としては教育出版を推薦させていただきました」と、〈自分がなぜ育鵬社の歴史教科書を推薦できなかったか、その理由〉を殊更にるる語り、傍聴の一般区民らに奇妙な印象を与えた。歴史は教育出版が採択された。

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2020/8/7中野区教育委員会会議録

この時の教科書採択については下記リンク先の記事参照。

教委人事議案(いずれも同意)

・入野氏(賛成多数で同意=採決時に1人退席) 
https://kugikai-nakano.jp/gian/2132312941.pdf

・岡本氏(全会一致で同意)
https://kugikai-nakano.jp/gian/2132312953.pdf

・村杉氏(同意=採決時に1人退席)
https://kugikai-nakano.jp/gian/21323121016.pdf

追記: 3/28岡本委員就任

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4月2日、岡本委員は就任後初の教育委員会定例会で「不慣れですが気がついたことはどんどん発信していきたい」と挨拶した。

追記: 4/1入野教育長再任 

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追記: 4/11村杉委員就任

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村杉委員は4月30日の教育委員会定例会で「小児科医の立場から中野区の子どもたちのために微力ながら一生懸命努めたい」と挨拶した。

追記: 4/20付なかの区報に掲載

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つづきの記事

 

(中野非公式通信)& (く)