『旧中野刑務所正門学術調査報告書』(中野区発行)が中野区立図書館に所蔵されました。まもなくデジタルアーカイブでも公開(2020年10月)

概要

中野区文化財保護審議会は2020年7月、大正時代のレンガ建築「旧中野刑務所正門」(東京都中野区新井)の文化財的価値を「極めて重要」と答申した。その際に同審議会が参照した『旧中野刑務所正門学術調査報告書』が10月、中野区立図書館に所蔵された。11月には中野区立図書館デジタルアーカイブでも公開される。2020/10/4記

 

経緯

2019年2月、酒井直人中野区長はいったん旧中野刑務所正門の現地保存方針を発表したが、その後再検討に転じた。2019年12月、区長は中野区教育委員会に門の取り扱いについて意見を求めた。2020年1月、教委は文化財保護審議会に門の文化財的価値と保存、公開について諮問、同審議会は7月に答申した。これを受け教委は9月に、門を移設すべき旨の意見を決定した。詳細下記。

今後の動きとしては、再検討後の"最終的な"方針が、11-12月の中野区議会第4回定例会で発表される。詳細下記。

 

答申の参考文献

中野区文化財保護審議会の答申全文は下記記事参照。

上記記事のあと、中野区ホームページでも審議会答申が公開された。

https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/651500/d028220_d/fil/20200821j10.pdf

答申に、審議会が参照した参考文献が2冊記載されている。1冊は、
 『中野のまちと刑務所』中野区企画部, 1984.
この本は中野区立図書館デジタルアーカイブで公開されている。

もう1冊が今回、中野区立図書館に所蔵された
 『旧中野刑務所正門学術調査報告書』中野区区民部文化・国際交流課, 2019.
である。

 

旧中野刑務所正門学術調査報告書とは

中野区は、旧中野刑務所正門の「学術調査」について2019年5月28日に指名競争入札を行い、株式会社建文(中野区中央)が312万7800円で落札した。

建文は2019年10月、200ページの「旧中野刑務所正門学術調査報告書」を作成した。中野区は11月、「曳家(移設)が技術的には可能」という部分を異常に強調した、学術調査報告書の4ページのダイジェストだけを中野区議会区民委員会に提出した。

https://kugikai-nakano.jp/shiryou/19111811170.pdf

(今回、元資料が図書館で公開されたので、11-12月議会の前に区議会議員も全文を読むべきだろう。)

委員会のあと、羽鳥だいすけ区議(共産)が元資料を入手し公開。

門の保存運動に取り組む「平和の門を考える会」(中野区)も2020年1月、区への情報公開請求で元資料を入手し公開した。

「考える会」は2020年2月、入手した学術調査報告書を元にトークイベントを開いた。解説の任に当たった専門家は「旧中野刑務所正門学術調査報告書」の内容を評価、ただし、「議員が曳家を検討するよう言ったと聞いている」「報告書に大バラシなど他の移設方法の記載がなく、曳家だけが検討されていて非常に不自然」と指摘した。

 

図書館に所蔵を要望

2020年9月に公表された文化財保護審議会答申には『旧中野刑務所学術調査報告書』が参考文献として記載されていた。それを見て、学術調査報告書が図書扱いとなっていることを知った私たちは、9月19日、所管の中野区区民部と中野区立図書館、区立図書館を所管する中野区教育委員会事務局にメールして、図書館での所蔵を要望した。

中野区発行資料所蔵の要望

次の文書は貴重な郷土資料であるので、中野区立図書館各館で所蔵してほしいです(紙及びデジタルで)。

株式会社建文『旧中野刑務所正門学術調査報告書』中野区区民部発行, 2019年.

10月1日に教育委員会事務局から返事がきた。

お問い合わせのありました「株式会社建文『旧中野刑務所正門学術調査報告書』中野区区民部発行 2019年」の中野区立図書館各館に所蔵して欲しいとのご要望ですが、所管である区民文化国際課の依頼を受け、10月1日より中央図書館及び地域図書館7館で開架することとなりました。
また、11月上旬からは、区立図書館のデジタルアーカイブにて、公開を開始する予定です。

10月1日、中野区立図書館8館全館に開架で所蔵。11月上旬からは区立図書館デジタルアーカイブで公開。

 

図書館蔵書となりました

中野区立図書館蔵書となった『旧中野刑務所正門学術調査報告書』の書影。

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書誌情報:

建文 編著『旧中野刑務所正門学術調査報告書』中野区区民部文化・国際交流課, 2019年10月.

【NDC1】E59 【サイズ】30cm 【ページ数・時間】4, 8, 8, 10, 100, 4, 18p
【価格】\0 【件名】中野区
第1章 業務概要
第2章 設計者 後藤慶二について
第3章 旧中野刑務所の沿革
第4章 資料から見る正門の変遷
第5章 建物調査
第6章 文化財としての価値
資料 旧中野刑務所正門学術調査 現況図・破損図

(中野区立図書館のOPACより。「第7章 保存・活用に係わる検討」がOPACのデータでは割愛されている)

ちなみに中野区立図書館OPACで「旧中野刑務所正門」をキーワード検索や書名検索してヒットするのは、この資料が初で現在のところ唯一だ。

 

「学術調査報告書」の内容

学術調査報告書は2章から4章にかけ、建設の経緯とその後の沿革から、旧中野刑務所正門の存在意義を説き起こしている。第5章に建文が2019年に実施した建物調査の報告。詳細な現況調査は必見だ。

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建文 編著『旧中野刑務所正門学術調査報告書』中野区区民部文化・国際交流課, 2019年10月. より

第6章には門の文化財的価値についての高い評価が記されている。しかし、第7章「保存・活用に係わる検討」、ここに件の「非常に不自然」な曳家検討の記述がある。

 

「学術調査報告書」の意義

旧中野刑務所正門は、1983年に中野刑務所が廃止、解体されたとき唯一残された。その後、法務省矯正研修所(2017年に東京都昭島市に移転)の敷地内の「倉庫」として台帳上は扱われた。取り扱いが定まっていないこともあって、詳細な調査はされてこなかった。

1980年代に東京都教育委員会が行った東京都近代洋風建築調査には「旧中野刑務所正門」が含まれており、1991年に発行された報告書に2ページの記載がある。

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東京都教育委員会『東京都の近代洋風建築 −近代洋風建築(第2次)調査報告−』東京都教育庁生涯学習部文化課, 1991年3月. より

(ちなみに国立国会図書館のNDL Onlineで「旧中野刑務所正門」を検索してヒットするのは、今のところこの都教委の調査報告だけだ)

今回の中野区発行『旧中野刑務所正門学術調査報告書』は、門についての初めての詳細な調査資料といえる。今後の取り扱いを考える基本になる文献だ。それが公共図書館所蔵によって、建築の専門家を含む多くの人の研究に供されるようになった意義は大きい。さらに中野区立図書館デジタルアーカイブで公開されれば、全世界から読めるようになる。

 

追記: デジタルアーカイブでも公開されました

10月30日、『旧中野刑務所正門学術調査報告書』は、中野区立図書館デジタルアーカイブで公開された。

 

つづきの記事

 

(中野非公式通信)

 

旧中野刑務所正門記事やまとめなど。

 

 

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