東京都中野区が住民参加の行政評価を廃止(2021年4月)

概要

東京都中野区は2020年度に、公募区民委員と有識者からなる行政評価の外部評価委員会を廃止し、外部評価をコンサルに委託した。区民による行政評価が無くなった。

2021年度は新型コロナによる財政難を理由に外部評価自体をやめた。このまま外部評価を廃止し自己点検と内部評価だけの行政評価にするのかどうかは不明。2021/4/22記

なお外部評価委員会の廃止決定は今から1年以上前だったのだが私は迂闊にも気付かず、最近公表された区議会議事録で問題になっているのを読んで初めて知った。行政評価のやり方や効果に関しての議論は勿論あるが、ここではそれまであった区政への住民参加の手立ての一つが廃止されたことについてのみ書く。

中野区の外部評価

開始から終了までを時系列で記す。

2002年度 外部評価開始

下の2002年4月7日付なかの区報によると、中野区が「効果的で合理的な政策の選択を行うために」行政評価を導入したのは2000年度。「区の施策や事業の目的を明らかにし、客観的な指標や数値によりコストや成果を示す」と説明している。

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2002年度からは公募区民を含む外部評価委員会による外部評価も実施した。下は2002年10月27日付区報に掲載された、最初の外部評価委員会区民委員公募のお知らせ。

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2003年4月11日中野区議会総務委員会での区の説明によると、最初の2002年度の外部評価委員会は、5つの施策と36事務事業について評価を行った。

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2019年度 最後の外部評価委員会

2019年度、中野区は今となっては最後の外部評価委員会による外部評価を実施した。下は2019年6月5日付区報掲載の区民委員募集。

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この最後の2019年度の評価対象は、子育て関連の35事業だった。外部評価委員が区の管理職に対して公開の場で質問する公開ヒアリングも開かれた。結果は下の通り中野区ホームページに掲載されている。

平成31年度 外部評価結果 | 中野区公式ホームページ

実は私もこの時の区民委員募集に応募したのだが不採用だった。それだけ行政のチェックをやりたい住民が多くいるということだ。しかし住民参加の行政評価を、中野区は翌2020年度廃止してしまった。

2020年1月 外部評価の方式変更を報告

2020年1月31日、中野区は区議会総務委員会に外部評価を専門機関または専門家が行うとする方針変更を報告した。

中野区議会総務委員会資料 行政評価等の実施について

この資料には外部評価委員会の廃止や区民による行政評価をなくすことは書かれてない。下の会議録を読んでも区はそのことに言及していない。議員も誰も問題にしていないので、この時は気がつかなかったのかもしれない。気づかれないように報告したのだとしたら狡猾だ。

令和2年01月31日中野区議会総務委員会

2020年度 コンサルに委託

2021年1月22日、区議会総務委員会で2020年度中野区外部評価結果が報告された。評価の対象は「公園維持管理事業」1事業だけ。調査分析機関は国際航業株式会社。

中野区議会総務委員会資料 令和2年度中野区外部評価結果について

上の資料は1月29日に中野区議会ホームページに掲載された。この資料を見て私は2020年度の外部評価がコンサルに委託されたことを不審に思ったが、この年だけ何らかの事情でそうしたのかなと思い、あまり気にかけなかった。

この外部評価は2020年7月22日に指名競争入札が行われ、240万円(税抜)で国際航業が落札している。

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2021年2月 外部評価委員会廃止が区議会で俎上に

中野区が外部評価委員会と区民による行政評価を廃止していたことは、2021年2月25日中野区議会予算特別委員会での公明党の南議員の質疑を議事録(4月19日に区議会ホームページで公開)で読んで初めて知った。ショックというよりびっくりした。20年近く続いた区政への区民参加の手段があっさり廃止されていた。

○南委員 次に、行政評価の在り方について伺います。行政評価の在り方の変更は、目標と成果による区政運営に先駆けて変更され、令和元年度には中野区行政評価実施要綱が改定されています。大きな改正点は、評価を行う対象と外部評価委員会を廃止し、区民による行政評価をなくし、専門性を有する者や機関による評価に変えたことです。中野区自治基本条例第3条には、「区民は、区の政策の企画立案、検討、実施、評価及び見直しのすべての過程に参加する権利を有する。」とあります。改正された要綱では、行政評価の結果を区民に公表し、意見を募るとありますが、区民の意見によって確定した評価が変わるわけではありません。結果的に区民の評価の権利を奪う、もしくは効果が薄まるなどの懸念はなかったのでしょうか。要綱改正に当たり、自治基本条例第3条に抵触するか否かの議論はあったのでしょうか。あったのであれば、議論の結論はどのようなものだったのでしょうか。伺います。

○藤永業務改善課長 行政評価実施要綱改正と自治基本条例についてでございます。行政評価の改善に当たっては、自治基本条例第3条に規定する区民の権利及び義務について、行政評価における区民参加の考え方としての議論を行ってございました。結論としましては、外部評価については専門性を求めることとし、区民参加につきましては、行政評価結果を区ホームページ等で公表すること、区民意識実態調査等のアンケートや、区民と区長のタウンミーティング、計画策定時、事業実施時などに区民の意見を聞く場を設けていることなどにより担保することとしたところでございます。

○南委員 いろいろ言いたいのですけど、時間がないので先に進めます。

 外部評価を専門性を有する者や機関による評価に変えるとは、実質は、区がお金を払ってコンサル等に評価を委託することになります。利害関係のある相手による評価で、結果が区の意向に沿うよう忖度されていないでしょうか。伺います。

○藤永業務改善課長 外部評価結果と区の意向についてでございますが、外部評価につきましては、業務改善の視点から、専門機関の力を借りて評価を行わせるものでございまして、今年度は公園維持管理事業を対象として実施したところでございます。外部からの評価内容については大きな要素でございますが、業務改善課が主導的に評価するものでございまして、区として公平な評価ができているものと認識してございます。

○南委員 それは区がそういうふうに思っているだけで、実際は違うのではないかなというふうに思わざるを得ないのですけれども。

 専門性を有する者や機関による外部評価は3事業程度行うと報告されていましたが、初年度の令和2年度は1事業のみです。縮小した理由を伺います。

○藤永業務改善課長 令和2年度の外部評価の対象事業数でございますけれども、予算提案のタイミングでは外部評価の対象事業を最終決定していなかった一方で、評価する事業によって1評価当たりの金額が変わることが想定されていたことから、今年度予算については概算で予算を計上したところでございます。今年度に入り、外部評価の内容を対象事業の精査後に見積りを聴取したところ、予算の範囲内で公園維持管理事業、1事業の実施となったところでございます。

○南委員 1事業が急に3事業分の予算を食うような、そういう積算しかできなかったのかなということが引っかかるのですけれども、先に進みます。

 令和3年度予算では、令和2年1月31日の閉会中の総務委員会で示された行政評価等の実施についての対象1、2の部分ですけれども、総務委員会の所管報告の資料ですが、対象1の部分には外部評価を予定されていますか。予算額とともにお答えください。

○藤永業務改善課長 本年1月の閉会中の総務委員会で御報告しましたとおり、来年度に外部評価を実施する予定はございませんので、令和3年度の予算では計上してございません。令和3年度予算編成の中で、区として20%削減という目標が掲げられておりまして、外部評価につきましては直接区民に関係しない事務であること、専門機関へのコンサル委託が想定されていたことから、予算計上を行わなかったところでございます。

○南委員 区民に直接関係のない事務だからというのは、もともと外部評価委員会を廃止して、公募区民に評価させないようにしたということが一番大きいのではないでしょうか。

 そもそも、令和2年1月31日の総務委員会で、行政評価等の実施についての報告をどうして業務改善課が行えたのでしょうか。中野区組織規則による業務改善課の主な分掌事務は、行政評価に係ることと業務改善の推進に関することです。区の目標の管理に関することは企画課の分掌事務であり、事実、目標と成果による区政運営についての質問で、行政評価に関すること以外は企画課が答弁されています。報告のタイトルこそ行政評価等の実施についてとされていますが、内容は行政評価のみならず、目標と成果による区政運営という区政の根幹に係る考え方の変更です。権限を逸脱した報告であったとの認識はありませんか。伺います。

○石井企画課長(企画部参事事務取扱) 令和2年第1回定例会総務委員会におきます行政評価等の実施についての報告でございますが、行政評価の仕組みの変更を主たる内容としたことから、業務改善課からの報告としたところでございますが、目標と成果による区政運営も関連していることから、企画課と連名での方向は妥当であったと捉えてございます。今後、区政運営の全般の説明に当たりましては、PDCAサイクル全体の流れを踏まえ、適切に対応してまいりたいと考えております。

○南委員 もう笑うしかないのですけど。

 区長は、区長就任直後の初めての施政方針で述べられた今後の区政運営の四つの柱の4番目は、区民と向き合う区役所への転換であり、そこで、中野区は自治基本条例を制定し、区民の区政への参加の権利を保障し、参加の仕組みをつくってきました。しかし、これまで策定した計画や政策には、本来主役であるべき区民の声が十分に反映されているとはいえないとし、政策形成に当たっては、政策立案から政策決定、政策実施、政策評価に至る過程を区民に検証可能な状態で公開し、区民が主体的に政策づくりに関与できる環境づくりを行いますと述べられました。しかし、我が会派の日野議員の一般質問でも述べたとおり、区民と向き合う区役所への転換の柱は2年目の施政方針から姿を消しております。予算編成過程の公表は部の要求予算を示したところから一向に進まず、政策立案過程から区民参加を目的としてスタートした政策企画会議では、重要な政策立案に関する会議の内容がいまだに見えず、行政評価も外部評価から区民を除くなど、目指す方向とは違うところへ進んでいるのではないかと危惧いたします。そのことを申し上げて、この項の質問は終わります。

(2021年2月25日中野区議会予算特別委員会)

あまりこういうことは言いたくないのだが、外部評価委員会廃止が区民の行政評価の権利を奪う懸念とか、そういうことを問題にするのが公明(区議会野党)で、立憲や共産(区議会与党)ではないあたりが、2018年に酒井区長を当選させて区議会与党になった中野区の野党共闘の残念なところだと思う。

2021年度は外部評価実施せず

上の会議録によると、2020年度に実施した、国際航業に委託した外部評価が1事業だけだったのは、中野区は3事業を予定していたが、見積もりを取ってみたら予算内で1事業しかできなかったという金銭的事情だとしている。

また2021年度については、新型コロナによる財政難が予想されるため支出削減の一環で外部評価は実施しない。

この2点については、議事録を検索したら上記2月25日の予算特別委員会の少し前、2月9日の区議会総務委員会(4月8日議事録公開)で説明されていた。

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2022年度以降は…?

わざわざコンサル委託という金のかかる方式に変更しておいて、金がかかることを理由に縮小したりやめたりするのはどういうことだろうか。逆に外部評価を廃止するために方式を変更したのだろうかとすら疑える。

2022年度以降に関しては、外部評価はもう廃止して自己点検と内部評価だけにするのかどうか、2月9日区議会総務委員会での担当者の説明を読んでもはっきりしない。

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とりあえず中野区行政評価の外部評価は「2020年度を最後に休止」という状態にして、そのうちこっそり廃止するんではないかという気がする。

ちなみに2021年度には行政評価を担当していた業務改善課自体が廃止された。

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全国の自治体における行政評価

中野区が行政評価でそれまで行われていた区民参加を廃止したことを上で記した。

参考のため、全国の自治体において行政評価への住民参加がどういうふうになっているか、少し古い調査だが財団法人地方自治研究機構「市区町村における住民参加方策に関する調査研究」(2013年3月)を見てみる。

市区町村における住民参加方策に関する調査研究

2000年頃は行政評価ブームだった

この論文に引用されている田中啓「日本の自治体の行政評価」(財団法人自治体国際化協会(CLAIR)、政策研究大学院大学 比較地方自治研究センター(COSLOG)「分野別自治制度及びその 運用に関する説明資料 No.14」所収)によると、地方自治体の行政評価のさきがけは、三重県が1996年に始めた「事務事業評価システム」で、「1990年代末頃から行政評価制度を導入する自治体は顕著に増加しはじめ、2000年を過ぎる頃には『行政評価ブーム』と形容されるような状況が現出した」という。

中野区が行政評価を始めたのは2000年度だから、このブームに乗ったと思われる。

2012年時点で住民参加型の行政評価は15%

この研究は2012年8月に「市区町村の政策形成における住民参加方策に関するアンケー ト調査」を行った。同年7月1日現在の1,742市区町村に調査して、有効回答635自治体、回答率36.7% 。

それによると「住民参加型の行政評価」を行なっていたのは15.4%だ。

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地方自治研究機構「市区町村における住民参加方策に関する調査研究」より
住民参加型の行政評価は行政への信頼確保に効果

アンケートによると、住民参加型の行政評価は「行政に対する信頼・評価等の確保」に関して、最も効果的な施策のようだ。

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地方自治研究機構「市区町村における住民参加方策に関する調査研究」より
大都市で活発なのに中野区ときたら

研究は「評価レベルとしては事務事業評価、評価のタイミングとしては事後評価が突出して高い。また、政令市、特別区等の大都市での住民参加型行政評価が活発」としている。

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地方自治研究機構「市区町村における住民参加方策に関する調査研究」より

中野区もいちおう大都市の特別区なのに、住民参加型の行政評価をいまさら廃止してしまいました。なんで?

中野区が過去に廃止した住民参加の仕組み

行政評価外部委員会とは別に、中野区が過去に廃止した住民参加の仕組みについて述べる。

教育委員準公選制

中野区が廃止した住民参加の仕組みで最も有名なのが教育委員準公選制だ。

中野区の教育委員準公選は、1981年、1985年、1989年、1993年の4回実施されたあと、1994年1月「教育委員候補者選定に関する区民投票条例を廃止する条例」が区議会で可決され廃止された。詳細は下記記事の該当箇所参照。

住区協議会

1980年前後から中野区の各地区には住民の意見を行政に反映させる「住区協議会」という地域自治組織があった。住区協議会制度は中野区自治基本条例策定(2005年)とともに廃止された。市町村合併により地域自治組織に対する関心が高まっていた時期に、先進例である中野区住区協議会が廃止されたことについて、下記の論文が書かれている。

三浦 哲司「大都市の地域自治組織廃止事例の検討 : 東京都中野区の地・住構想廃止を事例にして」, 『同志社政策科学研究』13巻1号, 2011年9月.

この件は下記記事の該当箇所参照。

なお、地方自治研究機構「市区町村における住民参加方策に関する調査研究」によると、2012年の時点で地域自治区・地域評議会などの制度がある自治体は21.4% にも達した。

図書館運営協議会

区民の要望を受けて1987年に発足した中野区の「図書館運営協議会」は、2013年、中野区立図書館全8館の指定管理開始とともに休眠状態となり、2016年に廃止された。この件は下記記事の該当箇所参照。

住民参加廃止の系譜

中野区が廃止した住民参加の仕組みは他にもあるだろうが、このブログで取り上げたことがあるのは上の「教育委員準公選制」「住区協議会」「図書館運営協議会」の3つ。教育委員準公選制は青山元区長が始め神山元区長の時に廃止された。住区協議会は大内〜青山区政にかけて各地区で始まり、図書館運営協議会は神山区政において開始、いずれも田中前区長が廃止した。

今回の、区民による行政評価は田中前区長が就任後間もない2002年に始めた。2018年に「区民参加」と「対話の力」を公約に掲げ田中前区長を破って初当選した酒井区長が2020年に廃止した。しかも1年後に区議が指摘するまでほとんどの区民が気づかないようなやり方で。

それでいて中野駅周辺再開発のエリアマネジメント協議会とか、業者の意見を取り入れる仕組みには積極的だ。何をやっているのか酒井区長。

酒井区政も住民参加廃止の系譜に連なるのだろうか。

 

(中野非公式通信)

 

 

 

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