東京都中野区に文化財保護審議会の傍聴を拒否されている件で、私たちの仲間が提訴しました。2021/5/21記
追記: 12/23東京地裁は請求を棄却。
- これまでに伝えた経緯
- 2021/1/27行政不服審査請求却下
- 2/25東京地裁に提訴
- 補足1:「送付」決定は区長と副区長2人の連名
- 補足2: 文化財保護審議会の公開は不十分
- 追記: 6/3第1回口頭弁論
- 追記: 7/13第2回口頭弁論
- 追記: 9/16第3回口頭弁論
- 追記: 10/7第4回口頭弁論
- 追記: 11/4第5回口頭弁論、結審
- 追記: 12/23判決
- つづきの記事
これまでに伝えた経緯
中野区の門の取り扱い経緯
大正時代のレンガ建築「旧中野刑務所正門」(東京都中野区新井)について、田中大輔前区長と田辺裕子前教育長は解体撤去の方針だったが、2018年6月に就任した酒井直人区長は、門を現地保存する方針を2019年2月に発表した。
ところが区議会での自民党などの反対を受け、現地保存方針見直しに転じた。
2019年12月、区長は中野区教育委員会に意見を求め、教委は2020年1月、門の文化財的価値と保存・公開方法について中野区文化財保護審議会に諮問した。
文化財保護審議会は2020年7月に答申、9月に教委が区長に意見を提出。それを受け区長は2021年1月、門を曳家により移築することを決定した。
門の保存問題には平和の森小学校移転問題が絡んでおり、経緯の詳細は下記リンク先の記事やまとめをご参照ください。
文化財保護審議会傍聴拒否の経緯
自治体の文化財保護審議会は当然傍聴できると思った私たちは、中野区で文化財行政を実質的に担当している区民部に2020年1-2月電話とメールで問い合わせた。しかし「公正かつ適切な意思形成が行われることを確保するため」として、まさかの「非公開」(傍聴拒否)だった。情報公開によると、傍聴を不可とする条例などの法的根拠は「不存在」なのにもかかわらず。
文化財保護審議会は中野区教育委員会の附属機関のため、教育委員会にメールして見解を聞いたが、教委事務局は「条例により文化財保護審議会の事務は区民部文化・国際交流課が担当」として答えず、メールは区民部に回され従前と同じ回答が返ってきた。こだまでしょうか。
行政不服審査請求の経緯
らちがあかないので3月、行政不服審査請求した。この辺までの経緯は下記参照。
区長は同月、外部の弁護士を審査請求の「審理員」に指名した。
ところが7月、区長は一方的に審査庁(審理を行う担当)を中野区長から中野区教育委員会に変更し、不服審査請求を区教委に送付。審理員の指名を取り消した。
教育委員会は、審理員なしで、当の教育委員会の「審査請求は却下して!」という弁明書に基づき決定すると通告してきた。これまでお伝えしたのはここまで。これ以降については下記参照。
2021/1/27行政不服審査請求却下
中野区教委が行政不服審査請求を却下
2021年1月27日、中野区教育委員会は審査請求に対する裁決をした。
「本件審査請求は、行政庁の処分に該当しないものに対して提起されたものであり、不適法な審査請求である」として却下した。いわゆる門前払いで、裁決の中で傍聴の可否は全く言及されていない。
教委は文化財保護審議会非公開の是非を論じなかった
裁決に先立つ1月8日と22日、教委は不服審査請求の協議と議決を「議決の過程」にあるという馬鹿げた理由で傍聴人を追い出し非公開で行った。会議録と資料は、その後教委ホームページで公表されたので下に貼る。
2021年1月8日中野区教育委員会定例会 協議事項「審査請求について」(非公開) 会議録 資料
1月22日中野区教育委員会定例会 議決事件「審査請求に対する裁決について」(非公開)(可決) 会議録
両日の会議録をみると、中野区教育委員会の委員たちは「メールは行政庁の処分に当たらない」という区側の見解をただ確認したのみで、教育委員会の附属機関である文化財保護審議会は公開すべきではないのかそれとも非公開でいいのか、そういうことについて誰一人一切言及しなかった。
2/25東京地裁に提訴
提訴、弁論分離
審査請求却下を受け、2021年2月25日に東京地裁に提訴した(本人訴訟)。当初の請求は3点だった。
1 被告中野区教育委員会が令和3年1月27日付でした裁決を取り消す
2 被告中野区長がした原処分(不服審査請求の教育委員会への送付)を取り消す
3 被告らは原告に対し,各自金160万円を支払え
地裁は訴訟の弁論を請求1-2(裁決と原処分の取り消し)と請求3(損害賠償)に分離した。
地裁の指示に従って、3について私たちは、被告を中野区に変更し、「中野区が原告に160万円を支払う」ことを請求する旨の訴状追完をした。
訴状(弁論分離+追完後).pdf - Google ドライブ
請求3(損害賠償請求)における原告主張
・中野区文化財保護審議会の非公開は住民の知る権利の侵害。
・当該メールは行政行為であり審査請求の対象。
・中野区長が審査請求書を中野区教育委員会に送付したのは違法。しかも中野区教育委員会に関する審査請求の審査庁は東京都教育委員会。従って中野区教育委員会の裁決は無効。
・審査に時間をかけすぎその間に文化財保護審議会は開かれてしまって傍聴の機会が奪われた。
・区長部局が条例の定めもなく文化財行政を実質的に行っているのは違法。
・審査請求の手続きの違法性と、文化財の保護に関する事務の違法性と、国民の知る権利の侵害を受けた原告の精神的苦痛に対し、中野区は160万円支払え。
弁論期日指定
地裁は請求3について第1回口頭弁論期日を指定した。
事件番号 令和3年(ワ)第5914号 損害賠償請求事件
(東京地裁民事第6部いA係)
第1回口頭弁論 2021年6月3日11:50 東京地裁613号法廷
区議会総務委で報告、質問なし
請求3の弁論期日を地裁が中野区に送達したため、中野区は5月13日の区議会総務委員会で訴訟について報告した。
5月13日中野区議会総務委員会資料「区を被告とする訴訟の提起について」-
https://kugikai-nakano.jp/shiryou/2151720629.pdf
区議からの質問など発言は全くなかった。
なおこの時は、 区民による平和の森公園発泡スチロール訴訟の判決についての報告 https://kugikai-nakano.jp/shiryou/2151720616.pdf と、別の区民による平和の森公園バーベキュー場を再開しないよう求める東京都公害審査会への公害紛争処理法に基づく調停の申請についての報告 https://kugikai-nakano.jp/shiryou/215172064.pdf もあったが、いずれも区議の発言は一切なかった。起きてる?
区民委で報告、議員「もういいよこれ」
中野区は6月8日の区議会区民委員会でも報告した。無所属むとう有子区議が状況を質問したが、矢澤課長は6月3日に裁判が始まったことを説明したにとどまった。
伊藤正信委員長(自民)が、他に質疑がないか尋ねたところ、高橋ちあき(自民)がにやにやしながら「もういいよこれ」と言い放った。えらそう。
補足1:「送付」決定は区長と副区長2人の連名
私たちの不服審査請求を区長が教育委員会に勝手に(&私たちの裁判での主張によれば違法に)送付することを決定した文書が原告側に公開されている。
決定は2020年5月26日。決定権者は酒井区長で、「審議」の欄に2人の副区長の両方と総務部長が名を連ねている。
審査請求書等の送付について.pdf - Google ドライブ
送付は5月26日に決定したのに不服審査請求の請求人(私たち)には知らされもしなかった。1カ月以上後にいきなり7月8日付の審査庁変更と審理員指名取り消し、および教育委員会の弁明書が郵送されてきて送付を知ったのは上の経緯で述べた通り。
決定権者なのに
なお2021年4月の中野区基本計画の意見交換会の際、区長は「なんで公開してないのか私も今分かってないんですけど、原則としては公開するものだと当然私も思っております。よっぽど公開しない理由がない限り公開すべきだと思っております」と、文化財保護審議会非公開の件はよく知らないようなことを言っていた。下記ブログの関係箇所参照。
決定権者なのに文書を見ていないのかそれともいちいち覚えていないのだろうか。
補足2: 文化財保護審議会の公開は不十分
議事要旨すら情報開示請求しないと非公開。遅い。不十分
中野区は、文化財保護審議会の内容は議事要旨を請求すれば読めるという。しかし教育委員会本体の会議録と違ってホームページには掲載されず、情報公開請求が必要だ。
教委の諮問を審議した議事要旨は、私たちの仲間が情報公開請求して入手した。文化財保護審議会が2020年6月30日と7月28日の2回開かれたことすら、開示によってようやく分かった。8月21日に請求して、開示決定は10月7日。なぜそんなにかかる。
文化財保護審議会議事要旨.pdf - Google ドライブ
この2回の審議会は合計3時間もあったのに、発言部分は合わせてたったの4ページしかない。しかも何が秘密なのか、発言した委員名は全て黒塗りという異常さだ。
議事要旨は記録としての価値がない
2020年8月21日の中野区教育委員会定例会で、中野区の矢澤岳・区民部区民文化国際課長が文化財保護審議会の答申を報告した。ちなみにこの報告も傍聴人を追い出して非公開で行われた。
この日の教委の会議録(1時間45分の会議で発言部分は33ページある)によるとその際、矢澤課長は次のように発言した。
例えば曳家を選択するに至った場合、そういった建物の高さと合わせるという点におきましては、現地保存するよりも容易であるという見解も出ているところでございます。
しかし、文化財保護審議会の議事要旨に「曳家の方が現地保存より容易」との見解が委員から出たとの記載は一切ない。発言はあったが議事要旨に書かれていないのか、それとも矢澤課長がない発言をあると言ったのか、確認しようがない。
なお矢澤発言の件は下記記事で詳報している。
そもそもHPに議事要旨どころかほとんど情報がない
中野区ウェブサイトの奥深いところに「区の附属機関など(審議会、審査会など)」というページがあり、文化財保護審議会も列挙されている。
区の附属機関など(審議会、審査会など) | 中野区公式ホームページ
しかし環境審議会など多くの審議会にあるリンクが文化財保護審議会には貼られておらず、議事要旨や決定事項はおろか、審議会の日程や開催したというお知らせ、委員の名簿すら掲載されていない。
訴訟とともに新たに傍聴申込みをしたが無視された
2021年4月30日、中野区教育委員会は旧中野刑務所正門の区文化財指定について文化財保護審議会に諮問することを決めた。文化財保護審議会がまた開かれるので、私たちは5月2日に傍聴を申し込んだ。詳細は下記ブログ(再掲)参照。
中野区は申し込みを完全に無視した。審議会の日時を教えてほしいというのと、傍聴不可の場合その旨連絡してほしいという要請も伝えていたのに、それすら連絡がなく、全くのなしの礫だった。詳細下記記事参照。
区教委は6月、旧中野刑務所正門を「旧豊多摩監獄表門」として文化財指定した。
追記: 6/3第1回口頭弁論
2021年6月3日、東京地裁で第1回口頭弁論が開かれた。担当は民事第6部の岡田紀彦裁判官。
中野区側は「答弁書」を提出した。中野区答弁書.pdf - Google ドライブ
しかし答弁書の中で答弁はされておらず、訴えについて幾つかの点を明らかにしろという、いわゆる「求釈明」が書かれていた。
訴訟の一方の当事者から他方への求釈明は、民事訴訟法上の根拠がないが、一部の弁護士により濫用されている。
そういう求釈明があると、裁判官によっては他方の当事者に釈明するかどうか尋ねるようだが、それはなかった。
その代わり原告に訴えの「骨子」を提出するよう求めた。中野区の答弁はその後になる。
次回期日は第2回口頭弁論2021年7月13日14:30東京地裁613号法廷。
追記: 7/13第2回口頭弁論
前回の裁判官の指示により、原告(中野区民)が訴えの骨子3枚(第1準備書面)を提出した。
原告第1準備書面 - 傍聴国賠第1準備書面.pdf - Google ドライブ
被告の中野区が9月3日までに答弁書を提出する。岡田裁判官は中野区に、提出された骨子を踏まえ法令上の問題などを具体的に反論するよう指示した。
次回期日は第3回口頭弁論9月16日(木)13:30東京地裁第613号法廷。
追記: 9/16第3回口頭弁論
第3回口頭弁論は9月16日に開かれた。中野区は手続きに問題はなかったとして請求棄却を求める準備書面(1)を提出した。
中野区の準備書面(1) - 2021_09_14_19_13_09.tiff.pdf - Google ドライブ
岡田裁判官は、区の書面の事実関係や評価について反論するよう原告の住民に指示した。次回第4回口頭弁論は10月7日(木)14:30東京地裁第613号法廷。
追記: 10/7第4回口頭弁論
第4回口頭弁論は10月7日にあった。手続きに問題はなかったとする前回の中野区の主張にこの日は原告の住民が反論した。
原告第2準備書面 - 傍聴国賠第2準備書面.pdf - Google ドライブ
それに対し区側が10/27までに反論する。次回第5回口頭弁論は11/4(木)11:35東京地裁第613号法廷。
追記: 11/4第5回口頭弁論、結審
第5回口頭弁論が11月4日に開かれ、結審した。
この日の口頭弁論では、被告の中野区が準備書面(2)を、原告の住民が第3準備書面を提出した。
被告準備書面(2) - 傍聴国賠準備書面(2).pdf - Google ドライブ
原告第3準備書面 - 傍聴国賠第3準備書面.pdf - Google ドライブ
岡田裁判官は、原告の請求の理由が先に提出した「骨子」(原告第1準備書面)の通りであることを確認して弁論を終結した。判決は12/23(木)13:30東京地裁613号法廷。
追記: 12/23判決
東京地裁は12月23日の判決言い渡しで、原告の請求は理由がないとして請求を棄却した。
対応は判決文を精査して検討する。
つづきの記事
(中野非公式通信) & (く)
中野区文化財保護審議会傍聴訴訟まとめ
旧中野刑務所正門と文化財保護審議会の記事とまとめ