中野東図書館の超高層書架は設計会社が「宝仙寺三重塔メタファ」として提案、中野区が「トイレを隠す」と「ツライチ」を要望し現在の形に (情報公開請求、2021年12月)

中野東図書館超高層書架3〉

【ダイジェストのダイジェスト】

中野東図書館の超高層書架は、設計会社の提案では「宝仙寺三重塔のメタファ」で、図書館に入ると最初にどーんと目の前にそびえているという趣向だったが、中野区が書架でトイレを隠すことを要望したため、結局トイレ前の狭い吹き抜けに作られた。

【ダイジェスト】

中野区立中野東図書館(東京都中野区中央、2022年2月開館予定)の吹き抜け超高層書架がなぜ作られたか手がかりを得るため、中野区と設計業者との打ち合わせ記録を私たちの仲間が情報公開請求し、開示された。今回の開示資料からわかった主なことは次の通り。

(1) 2017年9月作成の基本設計では中野東図書館に吹き抜けはなかったが、すぐ後の10月25日の実施設計打ち合わせで、設計会社の安井建築設計事務所が2カ所(!)の吹き抜けと、「宝仙寺三重塔のメタファ」(??)として吹き抜け3階分の「本の塔」を提案した。

(2) 中野区経営室(当時)が本の塔で「トイレを隠す」ことを要望したので、11月8日の打ち合わせで超高層書架はトイレ前吹き抜けに作ることになり、吹き抜けは2カ所ではなく1カ所に。図書館を訪れた人の目の前にまず超高層書架がどーんとそびえるはずの中央吹き抜けはなくなり、結局トイレ前に作られた超高層書架は、吹き抜けが狭くて全貌は見づらいものになった。

(3) 11月29日の打ち合わせで、区子ども教育部(教育委員会事務局)が書架をツライチにと要望。それを受け上から下まですとーんと平らな現在の超高層書架が形作られた模様。2021/12/19記

今回の開示文書は「黒塗り」ならぬ「白塗り」されていた。東京都の真似ですか。

あと、この記事では、件の書架が「ツタヤ図書館インスパイア」の産物であるかどうかも軽く言及する。

12/21注)「施設分野」は都市基盤部ではなく経営室(当時)のため関係箇所を手直しした。

2017年9月の基本設計に吹き抜け書架なし

中野区のホームページで公開されていて一般区民が見ることができる、中野東図書館の図面が、2017年9月に作成された中野東中学校複合施設の基本設計だけなのは、下記記事で伝えた通りだ。

nakanocitizens.hatenablog.jp

中野東図書館には超高層書架が2つある。2つの超高層書架のうち、階段部分の超高層書架(下図の黄丸)は基本設計の図面に記載されている。しかし中野区立図書館公式ツイッター炎上で全国的に知れ渡った3階ぶち抜き吹き抜けとその部分の超高層書架は基本設計にはない(下図の赤丸のところ)。それも前の記事で指摘した。

2017年9月の基本設計の中野東図書館平面図。赤丸(のちに吹き抜けと超高層書架が設置された場所)と黄丸(階段と階段周囲の書架)は加筆

第三中学校・第十中学校統合新校等複合施設整備基本設計

吹き抜け書架は実施設計で入った

今回の記事ではこの炎上書架ができた経緯をたどる。

中野区は2017年2月、中野東中学校複合施設の基本設計と実施設計を一括で、株式会社安井建築設計事務所に2億946万1680円で発注した。(既報)。実施設計の納期は2018年8月のため、吹き抜け書架はそれまでに実施設計に描き込まれたはずだ。

2021年11月15日のビジネスジャーナルの記事「中野区、奇抜すぎる図書館が物議…ツタヤ図書館インスパイア系、10mの高層書架」によると、子ども教育部の担当部署は吹き抜けが実施設計で入ったことを認めている。

 区の担当部署によれば、複合施設の基本設計(案)は2017年10月4日に議会提出されていたが、この時点では、建物内に吹き抜けをつくることは明示されていなかったという。
 しかし、2018年6月からの専門家会議までにつくられた実施設計では、明確に吹き抜けを設置することが示されていて、そのことについて専門家会議の委員も承知していたはずだという。さらに、2019年8月からの市民も含めて4回実施された検討会議でも承認された

なお、この「承認された」(太字はブログ著者)という発言は事実ではないので、そのことは記事の下の方で論じる。

biz-journal.jp

区と設計業者との打合せ記録を開示請求

下記の前回記事では、「区の中で協議」して超高層書架をつくったと、中野区子ども・教育政策課の誰かがJ-Castの11月17日の記事で発言してたので、区の意思決定過程がわかる文書の情報公開を請求したら、なんか違うものが開示されたことまで伝えた。

nakanocitizens.hatenablog.jp

この前回記事の開示請求は2021年11月18日だ。その前の11月15日に私たちの仲間が「中野東図書館の吹き抜け及び書架の決定に関わる設計委託事業者との打合せ記録及びその資料」を情報公開請求したが、その分は延長になり、12月16日に開示決定された。12月17日に区役所に取りにいった。

業者打ち合わせ開示決定書

開示文書は「白塗り」の打合せ記録

業者との打ち合わせに関する開示決定書によると、開示された文書は「設計業務 ヒアリング議事録 (2018年10月25日、11月8日、11月29日実施分)」。

設計業務ヒアリングというのは、発注者側が設計会社にもろもろ要望を伝える打ち合わせのことらしい。これを区と設計業者は、基本設計のあと、実施設計を作成する初めのころの段階で行ったようだ。

今回の文書は、超高層書架についてのヒアリング部分を開示したものと思われるのだが、開示された議事録の大部分は黒塗りならぬ白塗りにより隠されている。東京都の「これからは開示文書は黒塗りやめて白塗りにします♡」みたいなのが流行ってるんだろうか。やめてほしい。

というか、あとでその部分の開示請求を出すこともできるので、隠しても無駄だし面倒だからやめた方がいい。

2017/10/25-実施設計初回打合せ

3回のヒアリングの初回は2017年10月25日だ。

設計議事録20171025.pdf - Google ドライブ

設計議事録20171025図面.pdf - Google ドライブ

安井建築設計事務所が吹き抜け2カ所を提案

「図面」↓を見てほしい。安井建築設計事務所は前月作成した基本計画には入れてなかった吹き抜けを、実施設計の打ち合わせの第1回目に提案している。しかも2カ所も。2カ所の吹き抜けのうち、書架が描かれているのは一方(青丸)だけ、実際に作られた吹き抜け(赤丸)ではない方だ。

2017/10/25の図面。赤丸(現在の吹き抜け位置のトイレ前吹き抜け)と青丸(もう1カ所提案されていた中央吹き抜け)は加筆

中野区: 書架でトイレを隠して

打ち合わせ「議事録」は白塗りの結果、各回とも参加者の名前のほかは1-2行分のやり取りしか読めない。10月25日の参加者は、区側は、施設整備に関する事務を行う経営室施設分野(当時)から7人、子ども教育部(教育委員会事務局)は図書館担当1人だけ。安井建築設計事務所から6人、コンサルの山下ピー・エル・コンサルタンツから4人。

議事録によると、施設分野が「本の塔はトイレ側の吹き抜けにあるほうが良い。トイレを隠すように配架できないか」と発言、安井側が「その方向で調整する」と回答した。トイレ側吹き抜けは現在の場所(赤丸)だ。施設分野はまた、もう一方の中央吹き抜け(青丸)について「検討が必要」(=いらないのではないか)と指摘した。

安井: 超高層書架は宝仙寺三重塔メタファ(はい?)

「本の塔」というのは、この10月25日の提案資料に書かれている。この資料は中野区の全体コンセプト「未来SOUZOUスポット中野坂上」を受けて安井が提案したコンセプトシートだ。

設計議事録20171025提案資料.pdf - Google ドライブ

安井のコンセプトシートは、新図書館の敷地に江戸時代の観光名所だった宝仙寺三重塔があったことから「中央には三重塔をメタファにした本の塔を設け、3フロアをつなぎながら利用者を迎え入れます」と、歴史上の三重塔にかこつけて吹き抜け3階分の超高層書架を提案している。ちょっと意味がわからない。

安井のイメージ図に大英図書館「本の塔」と自社設計例

コンセプトシートの本の塔の説明のところに絵/写真が3枚ある↓。左は大英図書館の「本の塔」だ。中央は中野東図書館の階段にしては広々しすぎてると思ったら安井が設計した八尾市立八尾図書館。

安井建築設計事務所コンセプトシートの本の塔説明

右はイメージスケッチと思われる。本家の大英図書館の本の塔だったら本に手が届くので悪くなかったのだが、イメージスケッチはその後実際に中野東図書館に作られた超高層書架に近く、本も取れないし書架なのか飾り棚なのかダミー本置場なのかわからない。本の塔という名前のイメージと提案してる内容が、機能的にもデザイン的にも雲泥の差というか月とすっぽんで、ふざけているとしか思えない。

安井は高層書架を提案しがちなのかもしれない

施設の敷地にむかし三重塔があったかどうかに関係なく、安井は高層書架を提案しがちなのかもしれない。たぶん三重塔はこじつけで、他のクライアントには別の理由をつけて高層書架を提案しているのではなかろうか。だって中野東図書館のあの無粋で書架の役に立たない超高層書架に、どこか三重塔を彷彿とさせる要素があるかい? 三重塔の施主の飯塚惣兵衛が聞いたら怒るよ?

中野寶仙寺(左)と中野塔(右)。『江戸名所図会 2』 有朋堂書店, 1922年. 国立国会図書館NDLオンライン(インターネット公開)より

ただ、この「三重塔メタファ」超高層書架を安井がいきなり提案したのか、中野区があらかじめそういうものを作りたいと安井に相談していたからそんなものが提案されたのか、開示された資料からは不明だ。

11/8-第2回打合せ

設計議事録20171108.pdf - Google ドライブ

設計議事録20171108図面.pdf - Google ドライブ

目の前にそびえるはずの書架がトイレ隠しに

第2回のヒアリングは11月8日。安井は初回に「中央には三重塔をメタファにした本の塔」を提案した。つまり7-9階にある図書館の各階にエレベーターで到着した利用者の目の前にまず、どーんと超高層書架がそびえ立っていてびっくり、という趣向だった。しかし経営室施設分野による「トイレを隠す」要望によって中央吹き抜けはなくなった。

図書館に入ったら目の前に超高層書架でびっくり、という最初のこけおどしアイデアも悪趣味だと思うが、それにしてもコンセプトの換骨奪胎ではないか。それでいいのか。

トイレ前吹き抜けは狭くて超高層書架が見づらい

高層書架は中央吹き抜けからトイレ前の吹き抜けに移され、吹き抜けはそこ1カ所になった。というか、そもそも大して広くもない図書館になんで安井は吹き抜けを2カ所も提案したのか。

トイレ前の吹き抜けは狭くて、下から鋭角で見上げないと全貌が見えない。下の炎上ツイートの写真のように、普通に下から撮影すると吹き抜けが狭くて画角が足りない。広角レンズが必要だ。

ましてや中野区は最近、棚から下に物が落ちるのを防ぐ安全策のため「落下防止ネット」を張ると言ってるので、ネット越しで全体はよく見えないのではないか。

超高層書架の展示物はどこから見るのかという上記ビジネスジャーナルの質問に、子ども教育部の担当部署が「9階だったら9階の真正面から見られるところがある。8階は8階で見られるところがある」と答えている。ということは、中野東図書館の超高層書架はいまや各階の部分部分を見るもので、全体を一望することは想定されなくなっているのかもしれない。

各階ごとの部分部分を各階ごとに見るんだったら、あんなでかいものを作る必要はなかったのではないか。ますますなんのために作ったのか。

なぜそんなにトイレを隠そうとする

ヒアリング議事録によると、11月8日の出席者は経営室施設分野1人、中野区子ども教育部(教委事務局)=図書館担当=1人、安井2人、コンサル0人。

安井が「中央の吹き抜けは取りやめ、EVホール前は広くした。また本の塔をWC前にし、目隠しとして機能するようにした」と報告、子ども教育部(教委事務局)=図書館担当が「よろしい」と答えている。

2017/11/8の図面。赤丸は加筆

各階とも赤丸の右側がトイレだ。中野区はなぜ超高層書架を移して当初のこけおどしコンセプトを台無しにしてまでトイレを隠したかったのか。トイレに入るのは恥ずかしいことではないし、子どもなどトイレ利用者の安全のためには入口が周りから見える方がいいように思うのだが。

11/29-第3回打合せ

設計議事録20171129.pdf - Google ドライブ

設計議事録20171129図面.pdf - Google ドライブ

開示された中では最後の第3回ヒアリングは11月29日。

2017/11/29の図面

図面をみると吹き抜けの位置は前回11月8日と同様で幅を少し広くしたように見える。11月8日の図面では書架は吹き抜けの反対側(トイレ前の廊下)にしか描かれていなかったのが、11月29日の図面は現在のように棚が吹き抜け側と廊下側の両方にある。11月8日の図面は吹き抜け側の書架を描き忘れたのか何があったのか不明だ。

8階吹き抜け。2021/11/8(左)と11/29(右)。吹き抜けの幅と書架の配置が違う。11/8は書架が吹き抜け側になく、トイレ(廊下)側にだけある

区が「ツライチ」を要望

この11月29日の参加者は区側の施設分野と図書館担当、安井、コンサルから各1人。

議事録をみると、安井が吹き抜け書架の「使い勝手」についての確認を求め、図書館担当が「指定管理者に確認する」と答えている。

また、図書館担当が「吹き抜けに設ける本棚は納まりが面一にならないか」と発言し、安井が「区画方法に関係するので再検討する」と答えた。

面一は建設用語で「ツライチ」と読み、面に段差がなく平らなことを意味しているようだ。現在の超高層書架が上から下まですとーんと平らなところから考えると、この時点での吹き抜け書架はどこか凸凹なところがあって、中野区はそれを平らにしたかったと想像される。

超高層書架はツタヤ図書館インスパイアか

超高層書架は酒井区長以前に提案されていた

2018年6月に初当選した酒井直人中野区長が同11月に「憧れていた」とか言って武雄市立図書館を視察に行ったものだから、中野東図書館にツタヤ図書館ふうの超高層書架ができたのには酒井区長のツタヤ図書館への「憧れ」が関係しているのではないかという観測が流れた。というか、私もそうではないかと思っていた。

togetter.com

上記ビジネスジャーナルの記事は、中野東図書館の超高層書架を「ツタヤ図書館インスパイア系」と呼んでいる。

ところが今回の開示で、酒井区長就任以前の田中大輔前区長時代、2017年10月に設計会社によって吹き抜け書架が提案されていたことがわかった。

ツタヤ図書館風? の「滞在型サービス」が打ち出されていた

それでは中野区の新図書館の構想がツタヤ図書館的なものと全然関係ないものだったかというと、そうでもない。

そのことを説明する前に、上記ビジネスジャーナルの記事をもう1度引用する。

 区の担当部署によれば、複合施設の基本設計(案)は2017年10月4日に議会提出されていたが、この時点では、建物内に吹き抜けをつくることは明示されていなかったという。
 しかし、2018年6月からの専門家会議までにつくられた実施設計では、明確に吹き抜けを設置することが示されていて、そのことについて専門家会議の委員も承知していたはずだという。さらに、2019年8月からの市民も含めて4回実施された検討会議でも承認された

(太字はブログ著者)

この2018年の専門家会議というのは、中野区が区立図書館全館の指定管理者であるヴィアックスに委託した「新図書館及び地域開放型学校図書館等運営計画検討業務委託報告書」のために開かれた。

新図書館及び地域開放型学校図書館等運営計画検討業務委託報告書について | 中野区公式ホームページ

2019年の市民を含めて実施された検討会議というのは「今後の図書館サービスのあり方検討会」のことだ。

今後の図書館サービスのあり方検討会 | 中野区公式ホームページ

2018年の報告書では、新図書館に閲覧席が300席設けられることで「滞在型サービスへの対応」が打ち出されていた。2019年の検討会では区側が配布した資料に同じ表現があった。

カルチュア・コンビニエンス・クラブはツタヤ図書館について滞在型図書館を自称しているらしい。そういうことを検討会の当時、私は不明にして知らなかったのだが、だとすると図書館の滞在型サービスというターム自体、ツタヤ図書館の影が感じられるものであるのかもしれない。

検討会が超高層書架「承認」は事実ではない

ところで専門家会議は非公開だったので、吹き抜けを「専門家会議の委員も承知」と言われても一般区民には検証のしようがない。

さらに一般区民を含む検討会で吹き抜けが「承認された」というのは全く事実ではない。委員の中に私たちの仲間がおり、しかも他の仲間が会議の全日程を傍聴したから、事実ではないことを私たちはよく知っている。承認どころか、吹き抜けや超高層書架について職員はひとことも言及しなかった。中野区職員はいいかげんな発言をやめるべきだ。

関連: 東京新聞中野東図書館超高層書架を特報

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